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江島には、そういう失敗はないように見えた。江島の一人称は完璧に演じられていた。
学園生活は、江島の周りだけ、能の舞台のように整理されていた。その動きは常に、絵のように静謐だった。私はその秘訣を江島の聡明さに求めるが、夏目はどうか。
江島に備わった美の奥を知りたいと願ったのかもしれない。あるいはその逆。奥がありながら、美だけを見せてくれる存在だから、憧れていたのかもしれない。
私は、二人を隠れて見守りながら、暗い廊下に立っていた。
手を替え品を替え勧誘する前に、もっとなにか、自分にできたことがあったのではないかと、江島を見ながら思っていた。
当時、私は十三歳。一番大事なことを隠し、どうでもいいことばかり演じる術を身につけ始めていた。
一人称は演じなければ消えてしまう。私がそのことを悟るのはずいぶん先のこと。
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