3 二重線

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3 二重線

 気になる。何を考えているのか、この私をどう見ているのか、常に気になる。  たとえば朝、くだらない話の最中に、夏目が登校してきて隣に座ると、途端に恥ずかしくなる。愛想笑いを見透かされてるんじゃないか。噂話なんて軽薄だと思われているんじゃないか。  そうしてずっと気にしているのに、一言も話さず一日が終わる。放課後、私の心は荒れる。忌々しい。どうしてあんな奴を気にしなければならないのか。  校門を出ていく、寝ぐせでぶわぶわの後頭部。廊下の窓からそれが見えると腹が立つ。無愛想で陰気で身なりも構わぬ地味キャラのくせに。  などと、心の内でひどい悪態をついて夏目をおとしめる。おとしめた途端、ものすごく可哀想になり、あの寝ぐせ頭をぎゅっとしてやりたくなる。  成績、友人関係、身なり、評価。普通みんなが優先していく全てに無頓着で、独り、変なことを考えながら生きている夏目にメランコリーを感じ、私だけは味方でいようと思う。別に、世界が彼女の敵であるわけでもないのだが。
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