3 二重線

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 夏目は、視界に入れるものを自分で限定している。どう近づけばいいかわからない。あの朗読の日の、せっかくの賞賛に対する、あの反応のなさ。暖簾に腕押しを私の辞書で引いたらあの光景が出てくる。  私も変にプライドが高いから、彼女を何となく見守って、話しかけられたら何食わぬ顔で応じる。犬の構い方より、猫の愛で方で接していた。  そんな夏目と一緒に、部活見学に行った。近席の子たちと回ることになり、誰かが夏目にも声をかけたのだ。吉田こむぎあたりだろう。夏目に平然と話しかけるのはこむぎくらいしかいなかった。  まだ慣れない校内を、新入生だけで連れだって歩く。夏目に何部を見たいか聞くと、テニスと美術以外なら何でもいいという。  夏目の数少ない希望を皆は尊重した。テニスなんて暑いしね、とかいいながら、管弦楽部、ハンドベル部、天文部を見に行くことにした。  こむぎがソフト部とバスケ部で悩んでいるというので、最初に体育館でバスケ部、次に校庭でソフト部を眺めてから木造校舎を通って芸術棟に移動し、本命の文化系の活動を見て回ることにした。
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