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体育館を出ると、西側にグラウンド、東側には木造校舎とテニスコートがある。こむぎがソフト部を見に行ったのをグラウンドの隅で待つが、なかなか戻ってこない。誰かが、日差しを避けるべく、木造校舎の前で待とうと言った。
皆のあとに続こうとした私の背中に、無言ですがりついてきた者がある。
「なに、虫でもでた?」
何気なく振り返ると、夏目だった。私は硬直してしまった。
「ど、どうしたの?」
「いや…ちょっと……」
夏目は顔を下に向けながらごにょごにょ言っている。わりと察しはいい方なのだが、この時は思考がショートして、意図が全く理解できなかった。
夏目は肩を丸めたまま、私の襟の裾をつまんで、そろそろと木蔭の方へ移動しはじめた。私は夏目の耳襞を凝視しながら、されるがままに付いて行く。
「あやー!」
さっきからテニスコートの方で誰かが呼ばれていた。
私はそれよりも目の前の夏目と、彼女につままれている袖口ばかり気にしていた。
しきりに呼ばれているのが夏目で、それがこの不審な行動と関係があるなんて思いもよらなかった。
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