1 新世紀

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 私はプリントを投げだして教員用のキーボックスに走り、鍵をとって戻ってきた。部長さんは、その間じっと立っていた。うちの夏目が迷惑かけます。ほんとごめんの気持ちで、美術室の鍵だけでなく、美術準備室の鍵も渡してしまった。 「準備室には黒板の横のドアから入れるから。居留守使ってたらこれで開けて入っていいから」 「いっ……居留守ですか?」  絶句しながら手のひらに乗せられた2本の鍵と私の顔を見比べている。そうだよ、いたいけな生徒を撒こうとする教師は実在するんだよ。 「顧問に居留守を使われても折れない心が、部長というものには要求されます」  本校美術部の、という修飾は省いた。 「そうなんですね……。肝に銘じます」 「鍵は終わったら返してね」 「先生にお返しに上がればいいですか?」 「うん、そうだね。私はまだしばらくこの辺にいるから」  部長はお辞儀をして出ていった。  それきり、なかなか帰ってこなかった。プリントの仕分けが終わってもまだこない。鍵を返しに来るかと思って待っていたが、質問の生徒に呼ばれて席を外してしまった。
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