12 一人称を演じる

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 プリントを指さしながら説明する江島先輩の顔は見えなかったが、夏目の横顔は見えた。  夏目の目が光って見える。強い西日が、瞳の表面に引っかかっていた。眩しくないのだろうか。まっすぐ江島先輩を見ていた。  夏目は真面目な顔をしていた。真剣で、困惑し、臆病なその横顔は、ボサボサ頭の髪の先まで、震えるほどにイケメンだった。  江島も夏目も、笑顔を浮かべなくても穏やかに人と話ができる人間だった。私はそれが羨ましかった。よく見えないが、江島先輩もいつもの真面目な綺麗な顔で、話しているのだろう。  夏目はすでに、田舎の親戚の家に行くから合宿には行けないということを伝えたらしい。江島先輩は納得した様子で、欠席の場合にやっておいてほしいことを説明し始めていた。  もうちょっと勧誘してくれないかな、と私は思って聞いていた。江島先輩がもう一押ししてくれたら、夏目は来るのじゃないかと本気で思っていた。 「批評とか嫌で」  唐突に、夏目がそう言うのが聞こえた。
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