12 一人称を演じる

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 教員をしていると、いろんな悩みを打ち明けられる。学校に行きたくないと言う子もいる。生きるのが辛いと言う子も。死にたいと言う子も。思春期特有の悩み。打ち明けてくれて嬉しい。そう思っていた。懸命に向き合っているつもりだった。  去年の秋、そんな生徒の一人を亡くした。初めてのことだった。急に、怖くなった。分からなくなった。  また春が来て、怖くてたまらないのに、また新しいクラスを持たされていた。  五月、ある生徒から教室に行きたくない、友達と過ごすのが怖い、そう相談された。けれど、なんて言うのが正解か、私には分からなくなっていた。  授業も部活も教室も怖いのだとその子は言った。いじめられているわけではない。友達は優しい。先生も優しい。でもそういう問題ではない。もう疲れ果てたとその子は言った。  流行り病で点呼も授業もオンラインになり、全て削ぎ落とした一年を過ごした。それで気付いた。学生生活が不要不急のものでいかに溢れていたか。チャイム、号令、疎外感、団結。不要不急の最たるものは承認欲求。これにいかに苦しめられていたか。
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