2 同じ病

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 さてしかし、この部長。初めて会った時と比べて、だいぶ夏目への耐性がついてきたようだ。「含み」が通じるようになっていた。頼もしい。水を向ければ愚痴でも飛び出すかと思いきや、こんなことを言う。 「何を考えて生きていらっしゃるのかとか、どうしても気になってしまって……」  マスクがあるから必要ないのに、思わず口元を抑えた。笑いだしそうになるのを必死で隠す。真顔で何を言っているのだこの子は。例年、夏目にあきれたり、不満を漏らしたりする部長は多いが、知りたがる部長は初めてだった。  不憫でつい口が滑る。不埒な顧問を持ったことへの同情ではない。もっと同情すべきことが起きている。  この子はおそらく、かつての私と同じ病にかかっている。君は私と同じく報われない心を持ち、それでいてちゃんと、夏目にぶつかっていける。  すごいじゃないか。あの優しくてつれない心を、君なら開いてくれるかい。
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