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曲に合わせているようで合っていない踊りを楽しんでいる子どもも、服装は所々汚れ、破れている。
いい匂いがする料理を頬張っている子どもの腕は切り傷だらけで、顔にも汚れがついている。服もつぎはぎだらけだ。
煌びやかなドレスを着ている人なんてどこにもいない。
お淑やかに食事をする人もいない。
優雅に曲に合わせて踊る人も見当たらない。
「リリアン様、お飲み物はいかがですか?」
広間を見渡していると、仮面をした男の人に声を掛けられた。
どこをとっても見張りたちと同じ。違ったのは、見張りの人より小柄な体型なこと。それと着ているものが燕尾服ということだけだった。
「ご安心ください。お飲み物はジュースでございます」
何のジュースか訊ね、りんごジュースと言われたものを受け取った。
邪魔にならないように隅っこへ行く。
「君、今来たところ?」
リリアンに話しかけてきたのは、素足で体中傷だらけの少年だった。
「う、うん」
「僕はアグニス。君は?」
「り、リリアン」
リリアンは、アグニスと名乗った少年に名前を教える。少年は柔らかく微笑むと、リリアンの手を取った。
「ね、一緒に遊ぼうよ」
リリアンは躊躇ったものの断る理由もなかった。
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