クワイエット円舞曲

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 目が覚めると、そこには西洋風の城が(そび)え立ち、民衆は古風(クラシック)な服を着て歩いていた。  どうしたんだっけ……。確か今日は具合悪くて、学校を早退しようとしていたような……。  ああ、そうか。俺はきっと容体が悪化して死んでしまったんだ。そして、異世界に転生したに違いない。とすると、職業は何だ。勇者か、魔王か、はたまた王子様か──。 「おーい、キックぅ」  馬を引き連れた同い年ぐらいの少年が俺を呼んだ。キック。あんまりかっこ良くない。そもそもの名前は(かめ)()(きく)(すけ)だ。愛称ならば受け入れるが、そうじゃなかったら残念だ。 「何してんだよ。巡回警備の時間だぞ。今夜は姫様のための舞踏会。近隣諸国からたくさんのお偉いさんがやってくる。誰が姫様の結婚相手になるんだろうなあ。おまえは姫様の執事の息子として、ちゃんと警備しなきゃだめなんだぞ」  実に素晴らしい説明だ。とりあえず自分の役柄は理解した。異世界転生モノというのは最初に設定を理解しないといけない。少年は続けて言った。 「我らがクリシュ=クルセク王国は、ロスチラフ王様が統治している。その姫君であるユミカ・クラプカ・クリシュ姫様もお年頃だ。天下に響く美貌で知られた姫様が、ご自身の結婚相手を探すための舞踏会。おれたちはわくわくしながら朗報を待てばいいのさ」  カタカナが多くて完全な理解には及ばなかったが、とりあえず姫の名前はユミカというらしい。転生する前、俺が片想いしていた女の子と同じ名前だ。()(やま)(ゆみ)()。そうか、それならば、俺はそのユミカ姫と結ばれるために転生したってわけだな。(かん)(なん)(しん)()を乗り越え、愛を育む二人。将来的には俺がこの国の王になる。うむ、悪くない設定だ。
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