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「とにかく、ここを出るぞ」
言葉無き時間の後に唇が離れると、イルギッドが真剣な表情で告げる。
「俺がお前を助け出した後に、シンワがニゲルを攻める。ウィリディスやフラーヴァも援護してくれる手筈になってる」
彼がついていてくれるなら、もう何も怖いものは無い。ユヅカが笑顔でうなずき返した時。
「ほう、そういうお膳立てになっているのか」
部屋の扉が無造作に開き、廊下の明かりを背負ったヒューゴが、十数人の部下を連れて入ってきた。彼らが構える剣先は、違える事無くユヅカ達二人に向いている。
「狗。お前はどこまでも邪魔な駄犬だな」
彼がどういう表情をしているのかは、逆光でわからない。だがきっと、こちらを見下しきった、邪神のような笑みを浮かべているだろう。
「だが、馬鹿犬にも使い道はある」
ヒューゴがぱちんと指を鳴らすと、部下達がユヅカとイルギッドを引き離し、それぞれを抑え込む。
「ユヅカ」
ねばついた声でユヅカの名を呼ぶヒューゴが、ゆったりとした足取りで近づいてきて、ぐいと顎を持ち上げる。
「お前が私の言う事を聞いてくれる限り、この男の命は保証しよう。だから」
やたら嬉しそうに肩を揺らして、彼は宣誓した。
「お前の『タツノオトシゴ』の出番だよ。金の竜へ導いておくれ、私の愛しいユヅカ」
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