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1:竜の落とし子
一面の銀色が広がっている。
天蓋の色も、やや強く光差す太陽も、下方に立ちこめる雲も。全てが銀の世界だった。
その空の下、風を切りながら力強く翼をはためかせて飛ぶ、茶色い鷹のような巨鳥が一羽。遙か古代の言葉で文字通り『翼』という名を持つその鳥の背で、紺色の衣をまとった黒髪の青年が、右手は手綱を操りながら、左手は林檎を持ち、しゃくしゃくと軽い音を立てながらかじりついていた。
『イルギッド』
風に流される事無く、青年の名を呼ぶ、張りを持った少年の声がする。だが、人の姿は青年以外に見当たらない。声は、青年の紅い腰帯にぶら下がる、拳大の白い石を抱いた帯飾りから発せられていた。
『全ては君に任せる。だが、やりすぎないようにね』
「……うるせえよ」
青年が林檎をかじるのをやめ、淡い青の両眼を鬱陶しげに細める。
「頼まれたのも頼んできたのも、お前だろ。俺は俺の好きにやらせてもらう」
『はは、君ならそう返してくれると思ったよ』
「わかってるなら言うんじゃねえ」
仲が良いのか悪いのかわからないやりとりを、姿の見えない相手と交わした後、青年はもう一度林檎をかじり、芯だけになったそれを空へ放る。
「ったく、この俺の手を煩わせるとは、相変わらずだよな」
見事な放物線を描いて銀色の雲に呑み込まれたそれにはもう目もくれずに、青年は前を見すえて、口元を歪める。
その視線の先にある存在は、銀色の世界の中、萌えるような緑色をして、悠然と空を泳いでいた。
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