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「な、何だ!?」
男達がたじろぐのが、紗を一枚挟んだどこか遠くの世界の事のように見える。代わりに、光り輝く銀色の球体がはっきりと眼前に浮かぶ。
この状況を打開する為に触れるべきだ、と背中を押す意志と、全てを変えてしまうから触れてはいけない、と警告する意志が、ユヅカの中で戦い、勝利を得たのは前者であった。すがりつくように腕を伸ばし、光球を両手でしっかりと包み込む。
りん、と鈴が鳴るような濁り無い音が響いた直後、光球があっという間に姿を変えた。爬虫類に似た顔を持ち、一対の翼を背に生やした、銀色の鱗と瞳を持つ獣。それは大人達が子供に語る御伽話の中で『竜』と呼ばれている生物に、果てしなく似ていた。
『あなたは望む?』
男達がどよめくのを脇に追いやる、透明な声が、脳内に響く。
『あなたは、私が力を振るう事を望む?』
その言葉の意味を、正確に認識したわけではなかったかもしれない。それでも、ユヅカはゆっくりとうなずき、願った。
(この子を殺した人達を、懲らしめて)
『わかった』
いくばくかの感情も乗らない、平坦な声色だったが、ユヅカの望みは届いたらしい。竜に似たそれはこくりと頭を上下させ、男達に向き直ると、低い音で、一声吠えた。途端、竜の口から銀色の炎が吐き出され、先頭の男に容赦無く降りかかる。
「ぎゃああああ!!」
瞬く間に火だるまになった男が、武器を取り落とし、地面を転げ回る。だが、炎が男を逃がす事は無く、黒焦げになって動かなくなるまで、銀の輝きはめらめらと標的を焼き尽くした。
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