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「『タツノオトシゴ』の竜使を手に入れた者は、世界を手に入れる。伝承が本当か、確かめさせてもらおうじゃねえか」
ユヅカはひくっと喉を鳴らした。男が言っている事は理解出来ない。だが、彼らが自分をどこか―—『果て』の向こうへ連れ去ろうとしている事はわかる。
(助けて)
十八年の人生で最大の危機に陥っている事を悟り、必死に身をよじる。
(兄様、ヒューゴ兄様)
「助けでも願ってるのか? 来ねえよ、諦めるんだな」
男が下卑た笑いを浮かべて、ユヅカの肩に手をかけた時。
しゅん、と。
空気を裂くような音と共に何か白黒の物が視界を横切ったと思った途端、目の前の男の上半身が消失した。片割れを失った下肢がユヅカに向けて倒れ込んできて、胸にじんわりと生温く赤い液体が染みてくる。
「ひっ、ぎゃあっ!」
ユヅカを抑え込んでいた男の一人が、悲鳴をあげて手を離した。また空気を切る音がして、「ひいっ」「な、何だあっ!?」と次々悲鳴があがる。だがそれも数秒の事で、声は途切れ、どさどさっ、と、男達はあるいは喉を引き裂かれ、あるいは四肢を失って倒れ、周囲は静かになった。
何が起きたのか。一体誰が、この短時間で、どのような手段をもってこんな事を。心臓をばくばく言わせ、がくがく震えるユヅカの耳に、
「ったく、手間かけさせやがって」
心底面倒臭い、といった態の男声が届いたので、そちらを向いた瞬間。
淡い青の瞳と、視線が交わった。
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