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見間違えるはずが無い。ざんばら髪に淡い青の瞳。紺色の衣。
イルギッドだった。
「そんな格好してたらわからな……」
彼の言葉は、ユヅカがその胸に飛び込んでゆく事で、中途に打ち切られた。身体は温かい。ちゃんと血が通っている。心臓の音が耳に届く。彼がたしかに生きている証だ。
「ごめん、なさい」
滂沱のあまりにしゃくりあげながら、彼の胸に顔をうずめる。
「今度こそ、あなたを、死なせてしまったかと、思った」
「大丈夫だ」
力強い腕が背中に回され、優しく包み込んでくれる。
「俺はここにいる。もう、いなくならない。今度こそ、お前を守る」
そうだ。愛したのは、ヒューゴではない。この人だ。この不器用な優しさに惹かれたのだ。どんな目に遭っても、他の誰に身を奪われても、もう、心が彼を求める事をやめはしない。
涙に濡れた顔を上げれば、彼が薄く微笑んで、そっと頬を手で拭ってくれる。そして、無言で二人の顔の距離が近づき、口づけを交わした。初めて彼に唇を奪われた時は、嫌だと思ってしまったが、今の口づけは、まるで前世から定められていた恋人同士のようにごく自然で、幸福感に満ちたものであった。
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