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19:楽土を夢見る
「アウルムは、竜神が再生させた楽土へ、選ばれし者を導く為の翔竜だ」
再び閉じ込められた一室で、きらきらしい白のドレスに着飾られるユヅカに、黒い正装に身を包んだヒューゴが陶酔しきった様子で告げる。
「この翔竜世界のどこかを飛んでいるのに、誰の目にも見出せない。十八の歳を迎えた『タツノオトシゴ』の竜使が、愛する相手の名と共に召喚しない限りは」
おしろいをはたき、唇に紅を引いて、さながら花嫁のようになったユヅカに、ヒューゴは顔を寄せて、
「ああ、やっぱり美しいね、私のユヅカ」
と、満足げに頬を撫でる。気持ち悪い。厭わしい。この男の全てが。この狂気に負けまいと眼力を込めて睨み返し、声をあげた。
「イルギッドをどうしたの」
途端、灰色の瞳に、嫉妬の炎が宿る。
「あの狗の話はよすんだね」
「イルギッドに会わせて。でないと、ここから動かない」
引き離されて、酷い目に遭わされていないだろうか。ヒューゴの事だから、また銀色の雲の下へ落としたかもしれない。彼の無事を確認するまでは、絶対に目の前の男の言う事を聞くまいと決意して、ぎんと相手を見すえる。
「あんなに可愛い妹だったのに。あの狗の存在が、お前を狂わせてしまったようだね」
ヒューゴが憐憫を込めた視線を向けた後、己を抱き締めてゆるゆると首を振りながら溜息をつく。演者のようなその反応は滑稽で、更なる嫌悪を煽った。
「仕方無い。愛しいお前の願いだ、会わせてあげよう。だが」
どこか焦点の合っていない目で、ずいと顔を近づけて、ヒューゴはくつくつと笑いを洩らす。
「その後は、私の言う事も聞いてもらうよ。アウルムを喚び、あの狗の目の前で、お前が私のものである事を奴に知らしめよう」
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