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支度が終わった後、ユヅカはヒューゴの部下である黒服に連れられて、一室へ案内された。
「イルギッド!」
扉が開かれた途端、絨毯も敷かれていない冷たい木の床に横たわる彼を見つけて、ユヅカは悲鳴じみた声をあげて駆け寄る。イルギッドは両手首を縛められ、さんざん殴られたのだろう、顔を腫らして口の端に血の泡をにじませていた。服の下に隠れて見えないが、身体も蹴られて痣になっているかもしれない。
「ひどい……」
涙目になりながら膝をつけば、青い瞳がのろのろとこちらに焦点を合わせ、「……ユヅカ?」と掠れた声を出した後に、彼は顔をしかめた。口の中を切っているのだろう。
「大丈夫だ。心配、要らねえ」
痛みを堪えながら身を起こし、彼がユヅカと向き合う。
いつもだ。いつも自分は彼を傷つけてばかりで、何の役にも立てていない。無力感にはらはらと涙が舞い降りて、頬を濡らすと、縛られた手が伸びてきて、そっと拭ってくれた。
「大丈夫だって言ってんだろ」彼が薄く笑みを見せる。「これ以上の怪我なんて、俺はさんざんしてきた。今更、お前が気に病む事じゃあ、ない」
どうしてこの人は、辛い事を隠してそんな風に微笑えるのだろう。ユヅカの心に湧いて出た感情は、怒りにも近かった。
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