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「――言って!」
振り絞るように、言葉を紡ぎ出す。
「痛いなら痛いって、辛いなら辛いって、ちゃんと言って! お前のせいだって怒って! 大丈夫じゃないって泣いてよ!」
化粧が落ちるのも構わずに、涙の粒を飛ばして叫べば、イルギッドは虚を衝かれたように目を丸くした。だが、驚きの感情はすぐに去り、代わりに、血濡れの唇の端を持ち上げる。
「相手がお前だから、大丈夫だって言ってんだ。本当に大丈夫じゃなかったら、ちゃんと言ってる」
今度はユヅカがぽかんと口を開けてしまう番だった。少女の驚きには取り合わず、青年は続ける。
「お前が教えてくれた。喜びも、悲しみも、楽しい事も、辛い思いも、誰かを信じて、想う事も。空っぽの『狗』だった俺に、お前が『イルギッド』としての生を与えてくれたんだ」
青の瞳に真摯な光を宿して、イルギッドはまっすぐにユヅカを見つめる。
「俺はヒューゴに屈したりしない。最後まで諦めない。だから、お前も俺を信じてくれ。最後まで、諦めるな」
再び目の奥が熱くなる。自分は彼に、ここまでの深い想いをもらっていたのか。ならば、それに応えなくてはならない。
「わかった」
彼の腫れた両頬を痛めないように軽く包み込み、力強くうなずき。
「あなたを、信じる」
そして顔を近づけ、一瞬、彼の唇の熱を感じ取った。
「……ったく」
イルギッドが苦笑を見せ、ユヅカの唇を手で拭う。指に、紅ではない赤が移る。
「唇を切ってんのに、んな事するもんじゃあねえよ」
その表情に、また泣きたくなったが、運命は二人の時間を待ってはくれなかった。
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