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キッチンにて
「いいかい、絶対に秘密だよ。実は私……」
口を開いた彼女の顔に浮かぶのは、いつもの笑顔ではなかった。怒りと悲しみを混ぜ合わせたような、なんだか複雑な表情だ。
自分の気持ちを、自分でも整理できていないのだろうか。自分から話し始めたくせに、すぐに言葉を飲み込んでしまう。
向かい合って座る琴美は、少しの間、黙って待つことにした。
まだ食事の時間には早いので、姉の菊乃から「ちょっとキッチンまで来て」と言われた時には、何か手伝って欲しいのかと思ったが……。
どうやら違うらしい。かしこまったような姉の態度を見れば、言いにくい相談事あるいは告白があるのだろう、と想像するのは容易かった。
菊乃は俯いたまま、時々チラリチラリと目線だけを上げて、琴美の様子を伺っている。話を始めるきっかけが欲しいのだろう。
そう解釈した琴美は、あえて微笑みながら、それとなく水を向けることにした。
「どうしたの? お姉ちゃん、何か困ってることでもあるの?」
「いや、困ってるってほどじゃないんだけど……」
ようやく顔を上げた菊乃は、少しだけ表情が明るくなっていた。
「……むしろ逆かな? 一応は『幸せな話』の報告のはずだし」
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