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「幸せな話……? だったら勿体つけずに教えてよ。もしかしてお姉ちゃん、彼氏が出来たとか?」
テーブルに着いた時の菊乃の雰囲気から考えれば、とても「『幸せな話』の報告」とは思えない。だから琴美としては、完全に冗談のつもりだった。
しかし驚いたことに、菊乃は妹に対して、首を縦に振ってみせたのだ。
「やっぱり琴美は鋭いね。そう、その通りだよ。実は私、数ヶ月くらい前から、お付き合いしてる男性がいてね……」
「おめでとう! お姉ちゃんにも、ようやく春が来たんだね!」
琴美は目を丸くしながらも、素直に祝福の言葉を口にする。
しかし同時に、内心では大きな不安を感じてしまう。
ならば最初に姉が纏っていたネガティブな空気は何だったのか、と。
あれは喜びや嬉しさとは正反対だったし、実際に今も琴美の目の前で、菊乃は眉間に皺を寄せており、口元には苦笑いを浮かべている。「幸せ」とは真逆の何かがあるのは間違いなかった。
いや、むしろそちらの方が今回の本題であり、言いにくい話に違いない。
そう考えた琴美は、あえて突っ込んだ質問をしてみる。
「その彼氏さんって、どんな人? 悪い人じゃなければいいんだけど……。ほら、お姉ちゃんって案外、騙されやすい部分もあるから、ちょっと心配で……」
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