キッチンにて

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    「私も最初は知らなかったんだけどね。うん、付き合い始めてから、ようやく知ったんだけど……」  琴美の言い方には若干失礼なところもあったのに、その点は完全にスルーして、菊乃は答え始めた。 「……実は彼、私たちと同じマンション。それも、同じ五階の住人だったのさ」 「同じマンション……? 凄い偶然だね!」  歓声を上げる琴美。  つい面白がって無邪気に騒いでしまったが、すぐに落ち着きを取り戻す。  菊乃の発言の真意に気づいたのだ。 「待って、お姉ちゃん。この階に住んでる男の人って、みんな結婚してる人ばかりだよね?」 「そうなんだよ。どうしたらいいと思う?」 「どうしたらも何も……」  琴美は冷静に、そして正直に答えた。 「……そんなこと、私に聞かれても困るよ。お姉ちゃんの気持ち次第だよね? お姉ちゃん、その人を奥さんから略奪したいの?」 「わからない。妻帯者だと知っても、やっぱり彼のことは好きなんだけど、でも略奪だなんて、そんな大袈裟な……。一番大きな気持ちは、罪悪感かな?」 「じゃあ、まずは相手の奥さんに正直に告げるところからだね」  菊乃は「やっぱり彼のことは好き」と言うだけで「別れたい」とは言わなかった。その点を理解しながら、琴美はアドバイスを続ける。 「いずれにしても、慎重に行動してね。ほら、お姉ちゃんって昔から、慌てるとドジがいっそう酷くなって、とんでもない失敗もする(たち)だから……」 「ハハハ……。『慎重に行動』なんて出来たら、妻帯者だってこと隠すような男とは、最初から付き合っちゃいないよ」    
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