デブリードマン

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 私たちの部屋は家の二階にあった。兄の部屋は私の部屋の向かい側で、私はいつも階段をのぼって二階の廊下へ出ると、ちょうど廊下から「T」の字に私たちの部屋が分岐しているようだなと、この間取りをみて思っていた。  そして今日も同じことを思った。私たちの人生は同じところから始まって二つに分かれ、薄く埃臭い扉の先へ消えていった。一体、いつまで私は兄と一緒にいたのだろう。 『許可なく入室禁止』  兄の部屋の扉には、張りつめた赤い字でそう書かれた紙が貼ってある。家主を失ってもなお、それは私を拒んでいるように見えた。細部は破れていて、さながら魔よけのお札のようだ。  この扉を私は開けたことがない。兄は中学二年生のころから約4年半、この扉の奥に引きこもっていた。兄が姿を見せるのはトイレと夕食のときくらいだった。
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