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扉を挟んで行く行かないの押し問答をしていても仕方がない。
「もう知りませんからね」
母はそう吐き捨てて、一階へと足早に降りていった。それから母のなかで兄への扱いが変わった。
うちには父がいない。私が保育園のころに家を出て行ってしまった。だから母と兄が家族のすべてだった。母は兄よりも私を可愛がるようになった。
「あの子はきっとパパに似たんだわ。学校もサボるし、親にあんな反抗的な態度をとって……」
母は私に聞こえる声で露骨に兄の悪口を言った。そして、
「ミサキはあのようになってはいけませんよ」
といつも付け加えた。
「わかってる」
言われなくても分かっている。
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