デブリードマン

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 私は兄を反面教師に勉強に励んだ。ずっと部屋から出てこない兄を軽蔑しながら、兄と同じ中学校に合格した。中学も休むことなく、テストでもいい点数をとり続けた。  私が坂を駆け上がる一方で、兄はものすごいスピードで転げ落ちていった。高校受験にも失敗し、偏差値の低い通信制の高校へ入学した。そのころには勉強熱心だった兄の姿はなく、まるで世捨て人のようにスマホでゲームに明け暮れていた。 「ミサキ。勉強のほうは順調?」 もうすぐ大学受験だというのに、母はもう兄の話はしなくなった。 「うん。大丈夫」 「よかった。あなただけが私の希望なの」  私はその言葉に違和感を覚えた。母は続けた。 「大学は東京の学校へ進学しなさい。『アレ』がいると、あなたにも悪い気がうつるから」  母は兄を『アレ』扱いし、私と兄を離したがっていた。もしかしたら兄はその言葉をどこかで聞いていたのかもしれない。
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