デブリードマン

　それからしばらくして兄は自分の部屋で命を絶った。「T」の形に分岐した先の私と同じ間取りの暗い部屋で――。

　母は兄の死にさほどショックを受けていなかった。兄が学校へいかなくなったころには、母のなかの兄はすでに死んでいたのだろう。

　私はそれが悔しかったし、兄を追い込んでしまった原因は私にもあると思った。

　そんな中、医者を夢見て医学部を目指していた私は受験勉強の暇に「デブリードマン」いう言葉を知った。医学用語で壊死した組織を取り除き、まわりの健康な組織への影響を防ぐ外科的処置を指す。

　兄の選んだ「死」の意味が、このデブリードマンに重なった。