デブリードマン

1/9
前へ
/9ページ
次へ
『あなたが生きていてよかったわ』  線香と喪服の古臭い匂いが鼻につくなかで、私は母がそう言ったように思った。兄の葬儀を終えて家に帰ってきたときのことだ。 「ミサキがいてくれて本当に良かった」  母は私を抱きしめながら、今度ははっきりとそう言った。  私は何も言えなかった。だから母が離れるのを待って、学校に行くでもない日に着た制服を脱いだ。  私の兄。赤間テツロウは死んだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加