6.Side アキト ー運命の番の秘密ー

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6.Side アキト ー運命の番の秘密ー

 アキトは初めて「恋」というものを知った。  最早アキトにとって、ケンシロウのいない人生など考えられなかった。  可愛くて愛しくてずっとそばにいたい。そんな感覚を他人に対して持ったことは初めてだった。  α(アルファ)Ω(オメガ)。違う性別をもって生まれ、生きる世界も違った。  だが、アキトはケンシロウをどんなαの友人よりも身近な存在として感じていた。  アキトとケンシロウの間には穏やかな時間が流れていた。  他愛もない話に花を咲かせ、たまの休日には恋人らしくデートに出掛ける。  平凡な日常をケンシロウと過ごせる一瞬一瞬がかけがえのない時間となっていた。  一方でケンシロウとの将来がはっきり見通せるかと問われると、即答出来ずにいる自分がいるのも事実だった。  父サダオと母サチ。この二人がケンシロウがアキトの運命の番であったことを喜び、二人の結婚を認めるとはどうしても考えられなかったのだ。 「αの彼女はまだ出来ないのか?」  以前からサダオはそう言ってアキトのプライベートに探りを入れて来たものだった。  以前は面倒なことを訊かれたと顔をしかめるだけだったのが、今ではその質問をされるのが怖い。思わずビクッと身体が(こわ)()りそうになるのだった。  だからこそ余計に、アキトはケンシロウを恋人としたことをひた隠しにしていた。  だが不思議なことに、ケンシロウと初めて新宿二丁目で出会ったあの日以来、Ωであるケンシロウと関わりを持っていることを両親に勘付かれることはなかった。  思い返してみれば、あの時のような強烈なフェロモンの香りをかいだのは、あの時が最初で最後だった。  それに、付き合い始めてから一か月経っても、一向にケンシロウが発情期を迎える様子もない。  体調により発情期が前後することもあると訊く。  でも心配は心配だ。  しかし、いくらケンシロウにそのことを問い(ただ)しても、いつも答えをはぐらかされてしまうのだった。  だが、アキトもずっとケンシロウの発情期を気にしている訳にもいかなかった。  学会誌に投稿する論文の締め切りが間近に迫っていた。  今回の論文では、さすがに結果を出さなくてはならない。  学術誌という学術誌から(ことごと)く論文の掲載を断られて来たアキトは、そろそろ指導教授のオカダに愛想を尽かされかけているのを重々理解している。  更に、ケンシロウの一件で、二人の間には決定的な亀裂が入ってしまった。  大学教授というものは、往々にしてプライドが高い。オカダのような人間は特にだ。  大抵、人は「大学教授」という肩書を称賛し尊敬の念を抱くものだ。  学生は誰も彼も自分の意見に刃向かうことなど一切なく、おべっかを使う。(下手に教授相手に喧嘩を吹っ掛けた所で、成績を下げられてはたまらないという裏事情もあるのだが)  ところが、手を出そうとしたケンシロウにけんもほろろに拒絶された挙げ句、その番の相手がよりにもよって教え子のアキトであることが判明した。  しかもそのアキトが初めて教授として立場が上である自分に反旗を翻し、ケンシロウに無理矢理手を出そうとした所を邪魔されたのだ。  オカダはアキトを苦々しく思っているに違いなかった。  事実、あの事件以来、アキトに対するオカダからの風当たりが余計に強くなっていた。  もうオカダの力を借りずとも、自力で大学のポストを得なければならない。そのためには、研究業績を上げる以外の方法はない。  それにアキトが優秀だと学会で認められるようになれば、オカダだっていつまでもアキトを敵視ばかりしている訳にはいかなくなるだろう。  何より今のアキトには大学でのポストを得ることに今までにない使命感があった。  アキトと運命の番となったことで、ケンシロウは売り専ボーイの仕事を辞め、今では複数のアルバイトを掛け持ちして生活費を稼いでいる。  一刻も早くケンシロウを養えるようになり、安定した生活を送らせてやりたかった。  そのためにアキトは死に物狂いで机に向かった。  ケンシロウの家にもパソコンを持ち込み、ひたすら論文と格闘を続けた。 「ちょっと無理し過ぎなんじゃねえの? ちょっとは休みなよ」  目の下にクマを作ってフラフラになっているアキトにケンシロウが心配そうに声を掛けた。 「大丈夫だ。後三日でこれも終わりだから」  アキトは力なくケンシロウに笑いかけ、彼の頭を優しく撫でた。

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