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「さっちゃんからこれいただいたの」
トモちゃんがバラのちいさい花束を見せてニッコリすると、兄はフン、と言って、カナディアン・クラブのロックを注文した。
「お前、黄色いバラの花言葉知らないの?」
「知らないわよ。いちいちそんなの」
「これだから女は」
「花言葉に詳しすぎて人の贈り物に文句を言う人もどうかと思う」
「うるせ」
兄はかわいらしく小さく笑うトモちゃんのことを見ると、不貞腐れたように右肘をテーブルにつき、こぶしを頬にあてた。
その目は、私と同じ一重の切れ長で、こんなふうに不機嫌な顔をしていると結構怖い。でも、そのクールな感じが子供のころから女の子にウケていた。
分厚くて、底が透明に歪んで見える小ぶりのグラスのなかで氷が音をたてる。
「鍵、ちゃんとかけとけよ」
ウイスキーで唇を湿らせると、兄はこちらを見ずに言った。
今日は、トモちゃんのところに泊まるつもりなんだ。
私は返事をせず、汗をかいたグラスの中の濃いグレープフルーツ割に口をつけた。
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