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私と兄は、通っている大学は違うけれど、一緒に住んでいる。地方出身でふたりとも私大だから、本当は上京すら反対されたけれど、家賃の節約と身の安全(主に私の)、きちんと四年で卒業したあとは就職して経済的に自立することなど、一度にいろいろなことを条件に付けられてやっと念願の東京暮らしを手に入れた。
アパートはここから電車で一時間近くのところにある。
兄の通う大学は、トモちゃんの部屋に近いからお泊りするほうが明日の朝、便利なのだ。
ひとり電車で帰り、玄関の鍵を閉めると、ふらりと兄の部屋に入った。
本棚には法律、憲法、刑法、民事、等々のテキストや問題集がぎっしり詰まっている。
兄は高校生の時からやたら熱心に勉強するようになって、将来はその方面の仕事に就くつもりだという。
一見、何を勉強するのかわからない学部に籍を置く私のことを見下しているが、兄は、人が褒めるものに弱くて、そういうものに身を置きたがる。
法律の勉強だって、本当に興味があるかどうかはあやしい。それが悪いとは言わない。
見下されたところでその根拠は、「ほかの人がたいして関心を向けないから」という程度なので、馬鹿にされるのは悔しいけれど、深く傷ついたりはしない。
黄色いバラは、トモちゃんに似合うと思って買った。
赤でも、ピンクでもない。花言葉なんて関係ない。
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