ルミナス

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「来月、旅行に行く」  あんまり唐突だったので、驚いてつい座席のほうを見たが、兄の後頭部が見えただけだった。 「どこに?」と返信する。 「ニュージーランド」 「誰と?」  既読スルーだ。  きっとトモちゃんとだ。来月は兄の誕生日があるから二人で一緒に海外旅行してくるのだ。 「四泊してくる」 「ふーん お金持ち」  バイトをしていない兄が、そんなお金、持っているはずがない。トモちゃんの奢りというか、プレゼントに違いない。兄はそれに返信せず、仙台に着いた。  車両の中のほとんどの人が立ち上がり、上から荷物を取り出したり上着をはおったりしてから、出口に向かって皆同じ方向に向いて並んだ。  ホームに降り、もわっとした空気の中に紛れて、兄の隣にいた夫婦と私の隣に座っていた女の人が並んで階段を下りていった。  それぞれ離れて座っているとまったく気が付かなかったが、親しげに話す姿は、彼らが家族だと物語っていた。  私たちはつかず離れずの距離で何も話さず歩き続けた。  たぶん、ほかの人たちから見たら、兄妹なんて想像はつかず、赤の他人だと思われているだろう。 「暑かった? はいはいどうぞ」  玄関に着くとすぐ母が迎えた。お土産を渡すと、あらありがとう、と嬉しそうに言ってキッチンへ持っていき、私たちがとりあえずリビングに落ち着くと、すぐに冷たいお茶とおしぼりを持ってきた。
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