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東京の狭いアパートにいる時より、実家の庭を眺めた方がずっと夏らしく思える。
ぶたの蚊取り線香から、懐かしいにおいと薄い煙がぼんやり立ち上っている。
家を出たら帰ってくるたびにお客さん扱いをするようになった。
雑にされるよりはいいけれど、何となく母の「お客さんごっこ遊び」に付き合っているような気もする。
次の日の午前中に法要が済むとお寺の別室で会食が始まり、去年も会った親戚一同がまた顔を合わせた。
私は実家に置いている、法事用の黒のワンピースを着て、兄は就活用のスーツを使いたくないと、わざわざ量販店で買ったダークスーツを着ていた。
家を出て二年目の兄と一年目の私は、大人っぽくなったねえとか、きれいになったねえ、とかいろいろ褒められ、照れながら相手にビールを注いだり、会話に答えたりしていた。
「このあと、すぐ帰るのよね?」
私たちが、はい、と答えると、あら~寂しいわねえ、とおばさんたちがそろって母の方を見て、母は曖昧に笑みを作った。
つつがなくことを終える。それだけのために、皆で集まり、解散した。
それが、つまらないとは言わない。
みんなにちやほやされたり、身内に守られて、安全においしいものを食べられたりする。それってみんなの思う「いい子」をやりきっているからだ。
もし私や兄が、みんなの思いもしないことをしていたり、そういう性格だったりしたら、眉をひそめられ、居心地の悪い嫌な思いをしなければならない。
だから、ほかの人の思い通りにふるまうというのは案外、自分で思っている以上に大切だ。
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