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「ん~、そうね。ユウちゃんはカミングアウト無理だと思う」
薄い照明の光を受けたトモちゃんの顔に、きれいな影が落ちる。
お客さんは私のほかにいない。
いつも、開店直後のすいている時間にここへ来る。トモちゃんと二人きりで話ができるから。
「トモちゃんはいつからみんなに言った?」
トモちゃんは頬に手を当てちょっと考えて、
「言ってないけど、いつのまにか知られていたっていうか、男の子と付き合うことになっても、周りは、やっぱりね、みたいな反応だった」
見た目が優し気なトモちゃんならそうやって自然に受け入れられたのだろう。私は話を変えた。
「ニュージーランドに行くの? お兄ちゃんと」
トモちゃんは、あら、と恥ずかしそうに言った後、「そうなの」とうれしさを隠せない様子で答えた。
「満月の時にね、月の模様が逆さに見えるんだって」
「え?」
「あちら、南半球じゃない? 日本とは星空の見え方が違うの。
月の模様も、さかさまになるの。
ウサギに見える模様が、巨大なカニの爪に見えるんですって。
ユウちゃんが言うには、それは、時間帯によって違う見え方をするから正確じゃないっていうんだけれど……。
それでね、星座は本気で真逆になって、日本じゃ見えにくい明るい星が、ちょうど見やすい、いい位置に来てとてもきれいらしいの。
天の川が北半球よりもずっと大きくて素敵なんですって」
止まらない感じでしゃべっているのを見て、兄とトモちゃんが二人きりで見ている姿を想像する。
お金のこともあるし当然なんだけれど、私には声をかけてくれなかったことがなんだか寂しかった。
ちゃんと断るから、嘘でもいいから、一緒に行く? って冗談ぽく言ってほしかった。必死にシャットアウトされたように感じて、本当に私はお邪魔なんだなって、悲しかった。
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