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エンジンをかけクーラーの風量を最大にする。屍揚羽、いや、黒瀬明音がなにか言いながら窓を叩いているが知ったことではない。
「バカな子」
感情のこもらない声でつぶやき、アクセルを踏む。山道だからライトをつけていても視界が悪い。白野は慎重に運転しながら後部座席をちらりと見た。
誰も座っていないシートにコンビニの袋が置いてある。菓子パンと惣菜パン。残っているのは後者だ。
もし、明音が惣菜パンを選んでいたら、謝罪の言葉さえ聞ければ許してやろうと思っていた。だが、彼女はとことん運が悪いらしい。
甘ったるいパンなんか選ぶから。
山道をおり暫く走ると自動販売機の明かりが見えてきた。家路はまだまだ遠い。車を停め財布を手にする。
外はうんざりするほど蒸し暑かった。気味の悪い蛾が飛んできて、自動販売機にぺたりととまる。スポーツ飲料を二本書い、少し迷ってからペットボトルの底を蛾に打ちつけた。
悲鳴をあげることもなく、ぐしゃりと潰れる蛾。なんともあっけない。
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