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プップッと短くクラクションが鳴る。
7月半ば。明日から夏休みということもあってか、道路には同じ制服を着た中学生がキャッキャとはしゃぎながら、下校路を歩いていた。
黒のセダンがひとりの女子中学生の横へすうっと停まる。運転席のウィンドウが音もなく下がり、メガネをかけた神経質そうな女性がその子へと声をかけた。
「明音ちゃんだよね? 黒瀬明音ちゃん」
「え……」
女の子にしては背が高く、発達が追い付いていないのか、首や腕は折れそうなほどに細い。小さな顔にぎょろっと大きな目は、どこか病的でもあった。
「わたし、小水っていいます。あなたのお母さんの友達」
「はぁ……」
「お母さん倒れて病院に運ばれたの。危険な状態らしいから乗って!」
母が倒れた? そう聞かされても実感はなにも沸いてこず、ついでに母の口から『小水』という名前も聞いたことがない。明音はわずかに躊躇する。父はどうしたのだろうか。それに迎えにくるにしても普通は友達とかではなく、親戚なのではないだろうか。
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