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公園は閑散としていた。奥の広場でボール遊びをしているらしい子供の声が風に乗って聞こえる。ボールを蹴る鈍い音と、歓声のような、悲鳴のような声。
砂場、ブランコ、鉄棒、三つしかない遊具のどれも不自然に距離が開いていた。地面も所々はげている。かつてはあった遊具が撤去されたのだろう。その寂しい風景に何となく心打たれていると、奥の広場から大人が一人やってきてブランコに座った。勝手に体がびくついた。眞白、ではなく陽彩くんだ。私はつい植え込みの陰に隠れてしまう。
向こうに気付かれていないのならそのまま立ち去ればいい。そう思うのに、陰からそっと陽彩くんの姿を見つめた。彼は地面を蹴ってブランコを揺らし始めた。ぎいぎい軋む大きな音にひやりとしてしまう。壊れないか心配だ。
陽彩くんは無言でブランコを揺らす。広場ではしゃぐ子供の声がブランコの音と重なった。ブランコの揺れはどんどん大きくなっていく。陽彩くんは楽しいのだろうか。私は何をしているのだろう。
突然、陽彩くんは勢いをつけてブランコを飛び降りた。驚く私の目の前で、危うくもしゃがんだ格好で着地する。ほっと息を吐いたのも束の間で、揺れ続ける座板が彼の後頭部にごつんとぶつかった。
「あっ!」
咄嗟に出た声を手で抑える。陽彩くんは前のめりになって膝をついた。そのまま動かない。私は心配のあまり駆け寄っていた。揺れる座板を手で止め、彼の後頭部に触れる。
「大丈夫!?」
顔を覗き込むと、彼は右手を持ち上げて側頭部に当てた。そして何でもない顔で私を見る。
「あれ、伊吹さん。今の見てた?」
「見てた。大丈夫? 血とか出てない?」
私は様子を見るために後頭部を何度か撫でた。骨がへこんだりはしていないようだ。
「大丈夫。でも、かっこわるいところ見られた。恥ずかしい」
陽彩くんは目元を腕で擦って項垂れた。胸がぎゅっとなる。眞白みたいだと思ってしまった。
「伊吹さん、スーツ、かっこいいね」
指差して言われて戸惑った。
「あ、ありがとう」
「ごめん。俺のせいで膝が」
膝、と言われて気付いた。地面に膝をついてしまっている。立ち上がって軽く手で払うも、乾いた白っぽい土がこびりついていた。ショックを受けたものの、彼に気にさせないように軽い調子で「平気、平気」と笑った。しかし効果はなく、陽彩くんは申し訳なさそうに言った。
「俺、クリーニング代出すよ」
「平気だって」
「俺のせいだから。ちょっと待ってて」
「いいってば、大袈裟だよまし……」
喉が絞まった。今、眞白って言いかけた。気まずく口を噤んでいると、陽彩くんも立ち上がった。何を言われるのかと緊張してしまう。
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