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話題を変えたい。先の失敗を補うように、雑談みたいに明るく装った。
「陽彩くんはさ、眞白と話してみたかったと思う?」
「んー……どうだろう」と瞼を閉じて考える風な格好をした。「なんかピンと来ないんだよね。同じ顔の人間と話すってどんな気分なのかなあ」
眞白ならきっと、陽彩くんと話してみたいって言うよ。そう思った。でも口には出さなかった。陽彩くんは眞白の存在を認めたくないみたいに感じる。それが少し嫌だった。
「でもさあ」陽彩くんは急に声を大きくした。
「ん?」
「一緒に暮らしてたら、楽しかったかもね。眞白と俺と、伊吹さんと三人で遊んだりして」
陽彩くんは風を受けるように顔を上げた。その顔を横から見ながら無難な相槌を打つ。
「そうだね……」
ありえない。私は陽彩くんと同じようには考えられなかった。もし眞白に兄弟がいたら、眞白は私のことなんか見向きもしないだろう。例え三人で遊んだとしても、きっと私だけ置いて行かれる。双子の男の兄弟に私が混じって遊べるものか。
私と眞白が一緒にいたのは、一緒にいてくれたのは、お互いにお互いしかいなかったからだ。もし陽彩くんがいたら。私は。
陽彩くんは私を横目に見た。
「俺、最近、自分が眞白じゃないかって思えてきちゃって。母さんが眞白、眞白って呼ぶから自分の名前忘れそう」
そう冗談めかして言った。空気を明るくしようとしている、それを分かっていても私はむっとした。痛いところを突くように言ってしまう。
「母さんって思えるの? ずっと暮らしてなかったのに」
それでも陽彩くんは怒るでもなく他人の話をするような態度のままだった。手持ち無沙汰に膝を見下ろしている。
「まあ正直に言うと抵抗ある。俺は育ててくれた母さんとも血が繋がってないわけじゃないし。いくら本当の母親だって言われても、知らない人だし。知らない人が知らない人の名前呼んで、え、俺を呼んでんの? って。頭ぐちゃぐちゃになるよ。もう慣れたけど」
私は陽彩くんとの距離を測りかねていた。身内でもないのに同情するのは間違っているだろうか。安易に理解したふりをするのも良くないと思い、それでも一応聞いている意思を示すために数度頷いた。
「でも俺は幸せなんだろうね。両親が二人ずついるとか、普通ないし」
言い聞かせているようにも、本気でそう思っているようにも聞こえた。陽彩くんはまた風を受けるように顔を上げる。私の知らない匂いがした。眞白が同じ立場だったら陽彩くんと同じことを言いそうだと思った。
母さんが心配するから、と帰っていく陽彩くんの後ろ姿を見えなくなるまで見送った。体格は眞白と似ている。眞白と重ねていた。
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