3.同じ、違う

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3.同じ、違う

 十一月に入ると、街中にクリスマスの気配が(ただよ)うようになった。暖かい日が続いているのに孤独を強く感じる。恋人への切ない思いを歌った曲も、家族の団欒(だんらん)の中心に()えられたチキンやケーキも、私と関係の無いものだ。関係無いと目をそらせばそらすほどに意識に食い込んでくる。  就職活動は相変わらずだった。面接が上手くいかないどころか、面接前に気分が悪くなって辞退した。それも一度ではない。ハローワークの人にやんわり(とが)められ形式だけ頭を下げた。何に謝ってるんだろう。分からないまま「すみません。気を付けます」と呟いた。  上手くできないなら何も考えず休むしかない。分かっていても焦りばかり(つの)って、何かしなければと外をうろうろ歩き回った。家で横になってもろくに眠れない。(わず)かに眠れた時は夢を見る。眞白が無言で私を見ている夢だ。私は必死に何かを話していて、眞白は何も言わずに立っている。寝ていても起きていても疲れる。  次第にスーパーに行くのさえ苦痛になり、何も食べずに不安な日々を送っていた。私って、本当に駄目だ。死ぬこともできず、上手に生きることもできない。 「帰ってきなさい」  母からの電話に出た途端にそう言われ戸惑った。受け流す言葉も思い浮かばず、咄嗟(とっさ)に「そうする」と答えた。答えたら気が楽になった。帰るつもりはなかったのに、電話が終わってすぐに荷物をまとめた。人に言われたら、すぐに動ける。自分じゃ色々考えてもちっとも動けないのに。  実家に帰った日の夕食は寿司だった。何の祝いだよと呆れたのに、自分でもびっくりするくらいよく食べた。酢飯も刺身も、何年も食べていない気がした。  夕食後。母が()れたお茶を有難く飲んでいると、母は文句を言いたそうに、はあーっ、と大袈裟に溜め息を吐いた。 「仕事辞めたんならさっさと言えばいいのに。帰って来たって怒ったりしないんだから」 「別に、いいでしょ」 「伊吹も事情があるんだろ。ちゃんと一人で頑張ってたんだよな、なあ?」 「ん……」  父は機嫌が良さそうだった。私は反応に困ってお茶を飲んだ。温度が高い。薄く色がついただけのお茶も、今になると懐かしく良いものに感じられた。 「せっかくだし、陽彩くんとどこか遊びに行ったら?」 「おい」  父がすぐ咎めるような声を出した。母は父の方を見ずに、つまようじでガリをつついて口に入れている。 「会って話もしたんでしょ? ほんと、眞白くんにそっくり」 「うん、双子ってだけあるよね」  お茶の入ったマグカップを両手で包んだ。母は普通に雑談をしているだけ、だから私も雑談をする。 「眞白くんもほわほわした感じだったけど、陽彩くんも負けずにふわふわ~って感じ」 「分かるー」  母の表現がおかしくて笑った。ほわほわとふわふわか。父だけが心配そうに厳しい表情をしている。そんなに気にしなくていいよ、平気だから。心の中で言った。
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