1.同じ顔の人

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「眞白と幼馴染なんだよね?」  陽彩くんは急に打ち解けた風に言って、私の手元を見た。私はコーラのグラスを持ち上げて一口だけ飲む。炭酸はほとんど抜けていた。喉を潤して、答えた。 「うん。幼馴染だよ」 「眞白のこと好きだった?」  からかってる? 私は言葉に詰まった。眞白と同じ顔で変なことを言わないで。五年前の感情をひっくり返さないでよ。何も言えずに手を握りしめた。 「ごめん、答え辛いか。なんか羨ましくて。もし俺が眞白と逆だったら、俺の彼女だったのかなーとか考え……って、ごめん、さすがに無神経だった」  彼の言葉は全部無神経だ。勝手に色々押し付けてきて、自分は何も知らないで。からかうだとかも、眞白のことを知らないから言える言葉だ。私のことも。  それなのに彼の声も顔も、喋り方も眞白にそっくりでわけが分からないくらいに苦しい。全然違うのに、何も知らない別人なのに、眞白かもしれないと認識してしまう自分が恨めしい。私は行き場のない感情でストローをぎゅっと押しつぶした。 「私は、眞白のことがすごく好きだった。大好きだった。今も」  よく似た貴方とは違って。半分は意趣返しのつもりで、眞白との思い出を大事に抱えるように強く言った。私の眞白に対する想いは、簡単に消えないんだと証明したかった。知って欲しかった。 「ずっと、眞白と一緒に生きてくつもりだった。眞白以外に何もいらなかった。眞白だけいれば良かったの。私は、私は……」  感情が高ぶって息が上手く出来ない。咄嗟にグラスを持ち上げてストローをくわえて、離して、グラスを置いた。 「眞白が生きてさえいてくれれば良かったの。それなのに」  喉の奥が熱い。グラスに手を伸ばすも遠ざけられた。はっとして顔を上げる。眞白と同じ顔をした人が潰れたストローを直して、私の前にグラスを戻した。頭が冷える。眞白が死んで悲しいという話をしているのに、目の前に同じ顔の人が動いている。混乱する。 「俺じゃなくてごめんね」  何が、と問い返そうとしてできなかった。私は大切なもののようにグラスを両手で握りしめた。 「そろそろ出ようか。俺、用事思い出したから」  明らかな嘘だった。でも頷いた。
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