1.同じ顔の人

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 陽彩くんと別れて家に着くなり、子供みたいにぐずって泣いてそのまま眠ってしまった。薄暗いどろどろした気持ちも涙に変えたつもりが、より暗いものが固まって残った気がする。あまりすっきりしなかった。だるい疲れが溜まっただけだ。  翌日の昼頃、空腹で目覚めた。スマホを見るとメッセージアプリの通知が入っていた。母からだ。陽彩くんが、とメッセージの一部が表示されている。  渋々開いて未読のメッセージを辿る。落ち着いて聞いて欲しいんだけど、の無駄な前置き。既に知っていることばかりつらつら書いてあった。眞白、双子、陽彩くん。  そういえば陽彩くんは、私の母に私の居場所を聞いたのだと言っていた。母はどうして黙っていてくれなかったのか。疑問と、瞬間的に怒りが湧き上がって、波のように引いていった。眞白にそっくりな顔を思い出す。あの顔に聞かれれば答えても仕方ない。  母からのメッセージは昨日の十時頃に送られていた。私がハローワークにいるくらいの時間で、しかし通知音を消しているので気付かなかった。かつての私のスマホは、眞白と連絡を取り合うためのものだった。通知音は眞白の声も同じで、今となっては聞きたくない音だ。そんな感傷のせいで大事なことにも気付けない。先に母からのメッセージを見ていれば、もっと違う心境で陽彩くんと向き合えただろうに。  母からは電話の着信も入っていた。かけ直そうとして、空腹を思い出したので先に冷蔵庫を開ける。 「何もない」  調味料しかない。そうだった。昨日スーパーに行き損ねたんだった。私は急に無気力になって水だけ飲むと床に寝転がった。スマホを手で(もてあそ)びながら面倒なことを先延ばしにしようとする。  (あきら)めて寝転がったまま母に電話をかけた。何コールか鳴ってから、母は開口一番「あんた、ご飯食べてる?」と言った。母が言うことはまずこれだ。決まり文句である。私は正直に答えた。 「今日はまだ食べてない」 「お菓子でも何でもいいから毎日食べなさい」  実家で引きこもっていた頃のことを思い出した。母は毎日、食事と共にポテトチップスやチョコレートを部屋の前に置いてくれていた。体重が三キロ増えたが、お陰で今も生きている。そのせいで今も生きなければいけない。 「それより何?」  腹に手を当てながら問う。体重が増えたかもしれない、と腹の肉をつまんでみたりした。
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