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「高木君って、両親が二組いるって、本当?」
高校二年生になったばかりの俊介は、昼休み、新しくクラスメイトになった隣の席の小百合から声を掛けられた。
「ああ」
「本当なの!?」
「うん」
「どういう事?両親が二組って」
「まあ、簡単に言うと・・・」
俊介の両親は、共に一卵性双生児で、その二組の双子が友達の紹介で知り合い、長男信一と長女一海(ひとみ)、次男信二と次女二海(ふみ)というカップルになり、やがて結婚した。
そして、それぞれの夫婦に、ほぼ同時期に男の子が生まれた。
名前は、長男夫婦の子供が俊介で、次男夫婦の子供が幸平。
俊介と幸平は、親が一卵性双生児だった為か、いとこ同士なのに一卵性双生児と間違われる位、本当に良く似ていた。
そんな二組の家族が、俊介と幸平が5才の時、一緒に温泉旅行に出かけたのだが・・・
その旅行で、泊まっていた旅館が火事になるという悲劇が起きた。
その時、二組の夫婦は、一緒に露天風呂に入っていた。
子供達は、遊び疲れて、長男夫婦の部屋で眠っている。
二組の夫婦は、急いで、子供達のもとに向かおうとしたが、危険だからと従業員達に押し止められ、旅館の外へ連れて行かれた。
そして、一時間くらい過ぎた頃、消防隊員によって、二人の子供のうち一人だけが救助され、もう一人は亡くなった。
「その助けられた方の子供が、高木君だったって事?」
「ああ」
「そう。大変だったね」
「うん」
「でも、どうして、それで、高木君の両親が二組になったの?」
「俺達、本当に良く似てて、親達でも、見分けが付かなかったらしいんだ」
「全く?」
「ああ。一応、髪形は変えてたらしいんだけど」
「どういう風に?」
「俺が、耳が半分隠れる程度で、いとこの幸平が、完全に耳が隠れる位だったらしいんだ」
「それなら、髪形で判断できたんじゃないの?」
「それが、火事で髪が焼けちゃってて、元々、どれ位の長さだったか分からなくて」
「ふーん」
「服も、二人とも浴衣だったし」
「そうか」
「で、どっちの子供か分からないから、二組で一緒に育てようって事になったらしくて」
「そうなんだ」
「まあ、色んな所に書類提出したりしなきゃいけないから、手続き上、長男夫婦の子供って事にしようってなったらしいんだけど」
「そうか。じゃあ、本当は、俊介君じゃなくて幸平君っていう可能性もあるわけね」
「まあな」
二人は沈黙した。
しばらくして、何かを思い付いたように、小百合が口を開いた。
「高木君は、分からなかったの?」
「何が?」
「どっちが、本当の両親か」
「それが、その時のショックで、記憶を無くしたらしくって。今でも、当時の事は思い出せないし」
「そうか。DNA鑑定しても分からなかったのかな?」
「どうだったんだろうな。ひょっとしたら分かったのかもしれないけど。もし、分かったとしても、残酷だったからって言ってた」
「残酷?」
「ああ。助かったのが、自分達の子供じゃないって分かった方は、ショックでどうなるか分からなかったし、自分達の子供だって分かった方も、素直には喜べないしな」
「そうか。そうだよね」
午後6時過ぎ、帰宅した俊介は着替えを済ませてから、一階にあるリビングのドアを開け、一続きになっているキッチンへ向かった。
「信二は、まだ、来てないの?」
俊介は、料理している一海に話し掛けた。
昔は、両親の名前の後に、お父さんお母さんを付けていたが、いつしか面倒臭くなって止めていた。
「うん」
俊介は、一週間ごとに、長男と次男の家を行き来して生活している。
そして、お互いの家に移るタイミングが、今日、月曜日の夕方だった。
今いるのは長男信一の家。
次男信二の家は、ここより少し学校から離れていて方向も逆なので、会社帰りに、いつも信二が車で迎えに来る事になっていた。
学校に必要な物は、お互いの家に、それぞれ一式揃っていて、俊介だけが移動すればいいので、まだ楽だったが。
「面倒臭いよな」
「何が ?」
「一週間ごとに引っ越す生活」
「ごめんね。そんな生活させて」
一海は、悲しそうな表情で呟いた。
「でも、まあ。気分転換になっていいけど」
俊介が慌ててフォローすると、
「そうでしょ! 気分転換は大事だもんね」
途端に、一海の表情は、晴れやかになった。
二人が、そんな会話をしていると、不意に、リビングのドアが開いた。
そして、スーツ姿の信一が、ネクタイを緩めながら入ってきた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
一海が声を掛けた。
「どうだ? 新しいクラスは?」
信一は、ダイニングテーブルの椅子に座りながら、俊介に話し掛けた。
「まあまあかな」
数十分後、また、リビングのドアが開いた。
そして、ネクタイを緩めながら入ってきたのは、信一だった。
信一!?
一海と俊介は、不思議そうに目を合わせ、次に、旧信一に視線を移した。
「ただいま。おう、来てたのか。信二」
新信一は、旧信一を見つけて声を掛けた。
信二!?
一海と俊介は、また、目を合わせた。
「信二さんだったの!?」
「うん」
一海の問いに、旧信一改め信二は頷いた。
「どうかしたのか?」
変な空気を感じた信一が、一海に聞いた。
「信二さんが、信一さんになり切って過ごしてたから」
「えっ!?何で、そんな事」
信一は、信二を問い詰めた。
「帰宅気分を、二度味わいたかっただけだよ」
「帰宅気分?」
「ああ、仕事から帰って来た時のホッとした気分を、一日に二回も味わえるなんて、双子の特権だろ」
「そういう事か。いいな、それ」
その時、二人の会話の声を掻き分けるように、点けっ放しにしていたリビングのテレビから音声が漏れてきた。
「先程・・・名前を、信一と表記していましたが、信二の間違いでした」
聞き覚えのある名前が聞こえてきて、四人は、テレビに注目した。
「繰り返します。先程、横領で逮捕された容疑者の下の名前を信一と表記していましたが、信二の間違いでした。お詫びして、訂正いたします」
奇妙な偶然に、四人は見つめ合った。
そして、同時に吹き出し、笑い続けた。
「・・・じゃあ、そろそろ行くよ」
頃合いを見て、信二と俊介は信一家を出た。
「ただいま」
信二は、自宅に入る前に締め直したネクタイを、もう一度緩めながら、リビングのドアを開けた。
「お帰りなさい」
隣にあるダイニングキッチンで夕食の準備をしていた二海が、笑顔で迎えた。
「あっ、そうだ、幸平。そろそろ、写真撮る時期なんだけど」
「また、幸平が出てるぞ」
「あっ、ごめん」
俊介が幼かった頃は、混乱するといけないからという理由で、信二夫婦も呼び方は『俊介』で統一していた。
しかし、亡くなったのが幸平だと科学的に証明された訳でもないし、信二夫婦も当然、そうは思っていない。
だから、『幸平』という呼び方が、つい口に出てしまうのはしょうがない話だろう。
特に最近は、長年我慢していた反動なのか、俊介が成長したから大丈夫だろうという油断からなのか、よく『幸平』が顔を出す。
「もう、そんな時期か」
「忘れないうちに、いい? 今」
「別に、いいけど」
二海は携帯を手にし、俊介と共に隣の和室に移動した。
そこには仏壇があり、俊介の写真が『幸平』として飾られていた。
二海は、毎年この時期になると俊介の写真を撮り、仏壇の写真をアップデートしている。
「仏壇の写真が毎年アップデートされるって、おかしいだろ」
俊介は、仏壇の横の襖の前という、毎年の定位置に着きながら抗議した。
「いいでしょ。二組の夫婦で一人の子供を育ててる、私たち夫婦の特権なんだから」
「特権て」
「それに・・・」
「それに?」
「写真が5才の時のままじゃ、本当に、幸平が死んじゃったみたいじゃない」
二海は、淋しそうに俯きながら言った。
「分かったよ。早く撮れよ」
「良かった!」
二海は元気を取り戻し、写真を撮った。
金曜日の高校の休憩時間。
「明日の晩飯、どこかで一緒に食わないか?」
俊介は、後ろの席の友人、桑原に声を掛けた。
「悪い。明日は用事があるんだ」
と言って、桑原は席を立った。
次に、通りかかった別の友人にも声を掛けたが、結果は同じだった。
「家では食べれないの?」
その様子を見ていた隣の席の小百合が、話し掛けてきた。
「うん。子供の時から、毎年この時期になると、二組の両親だけで一泊の旅行に行くんだよ。親戚に俺を預けて」
「何で、一緒に行かないの?」
「俺が、色んな事思い出すと困るからじゃないかな」
「どういう事?」
「多分だけど。旅行先は、俺が5才の時に火事に遭った場所じゃないかと思うんだよ」
「ああ・・・」
「で、四人だけで供養してるんじゃないかな」
「そうか」
小百合は、そう呟いたまま何かを考え込んでいた。
そして、おもむろに口を開いた。
「高木君は、それでいいの?」
「それでって?」
「自分が、本当は俊介なのか幸平なのか、分からないままで」
「それは・・・」
俊介が、幾度となく自分にしてきた問い掛けだった。
俺は、俊介なのか、それとも幸平なのか。
しかし、二組の両親の事を考えると封印せざるを得ない事だった。
「知りたくない事はないよ。でも、どうしようもないもんな」
「一緒に旅行に行けば、何か思い出すんじゃない?」
「そんな事、許してくれる訳ないだろ」
「じゃあ、尾行すれば?」
「尾行?」
「どこに行くのか、全然分からないの?」
「いや。多分、辰野温泉だと思う。昔、親戚同士が話してるのを、偶然、聞いた事があるから。泊まった旅館までは分からないけど」
「電車で行くの?」
「うん」
「お父さんたちは、いつ頃、家を出るの?」
「だいたい、昼前には出るけど」
「ふーん。まあ一応、念の為に、横尾駅から尾行した方がいいよね。じゃあ、明日は、横尾駅に午前11時に集合ね」
「集合って、どういう事だよ。俺一人だろ」
「私も行くから」
「何で、中橋も行くんだよ」
「興味があるから」
翌日の土曜日。
俊介と小百合は、横尾駅の構内にある喫茶店の、窓際の席に座っていた。
ここからなら、駅の入り口を見渡せる。
本当に、こんな事をして良いんだろうか。
もしかしたら、今の幸せな家庭が壊れるかもしれない。
でも、本当の自分はどっちなのか、知りたい気持ちもあるし。
俊介が、そんな事を考えていると、二組の両親が、駅の入り口に姿を見せた。
二人は、鞄を手に喫茶店の出口に向かった。
二組の両親は、やはり、辰野温泉方面の電車に乗った。
俊介と小百合は、隣の車両に乗っている。
四人掛けの席に、俊介は両親たちに背を向ける様にして座り、向かいの席に座った小百合が様子を窺っていた。
「凄いね。本当に、双子同士で結婚したんだね」
小百合は、興味深そうに二組の両親を眺めていた。
すると、ふとした疑問を思い付き口を開いた。
「五人でポーカーやってて、自分の手にしたカードが、何ペアか分からなくなったりしないの?」
「そんな訳ないだろ。カードと両親の区別くらい付くよ」
「そりゃそうか。なんか、緊張するね」
「何が?」
「初めての尾行」
「尾行て言ったって、乗り換え無しで辰野温泉口まで行けるから、ただ電車に乗ってるだけだけどな。これじゃあ、ただの、距離感がある家族旅行だよ」
「まあ、大変なのは、駅を降りてからよね。どこに、どんな手段で行くか分からないから」
「そうだな」
「パスポートは用意して来た?」
「パスポート!?」
「うん。もし尾行がバレて、海外に高飛びされたら困るなと思って、一応、用意して来たんだけど」
「する訳ないだろ。犯罪者じゃないんだから」
電車は、何事もなく辰野温泉口駅に着き、二組の両親は改札を通り抜けた。
少し距離を置いて、俊介と小百合も後に続く。
二組の両親は、タクシー乗り場やバス停も通り過ぎて行った。
「歩いて行くのかな?」
「みたいだな」
「なんか、やっと尾行らしくなってきたね」
小百合が、電柱の陰に隠れながら言った。
俊介も、その後ろに隠れる。
10分くらい歩いた後、四人は、マンションの前で立ち止まった。
五階建てで、これといった特徴が無いマンションを、しばらくの間、四人は眺めていた。
そして、辺りを見回し、人が居ない事を確認してから、四人は軽く手を合わせた。
その後、一海が電話をし、到着したタクシーに乗って、四人は、その場を後にした。
「この場所にあったんだね。旅館」
マンションの前まで来て、小百合が言った。
「だろうな」
辺りを見回しながら、俊介が頷いた。
海が見渡せる場所に建っている、このマンション。
旅館だった頃は、さぞかし景色も良くて人気だったんだろうな。
「何か、思い出した?」
物思いに耽っていた俊介に、小百合が話し掛けてきた。
「いや」
「そう。これからどうする?」
「うーん・・・」
「せっかく来たんだから、一泊していく? 一応、用意もしてきてるし。のんびりしてる間に、何か思い出すかもしれないし」
「そうだな。・じゃあ、早めに、泊まるとこ確保しとかないとな」
俊介は、携帯を取り出し、宿探しを始めた。
俊介と小百合は、旅館のフロントに到着した。
「いらっしゃいませ」
「予約している高木俊介です」
「お二部屋でございましたね」
「はい」
「あの、失礼ですが、年齢確認をさせていただいてもよろしいでしょうか」
「16ですけど」
「それですと、親御さんの承諾が必要になるんですけど」
「え?そうなんですか?書面ですか?」
「いえ。お電話でも構わないんですが」
「キャンセルする場合、キャンセル料ってかかりますよね?」
「はい。100%になります」
「ちょっと、すいません」
小百合は、俊介を促してフロントを離れ、相談を始めた。
「どうする?私は、女友達と辰野温泉に遊びに行くって言って来たから、電話すれば、すぐOKしてくれると思うけど・・・」
「そうだな。100%のキャンセル料払って、このまま帰るのも勿体ないけど。でもなあ・・・」
その時、俊介の視界に、見慣れた顔が飛び込んで来た。
それは、浴衣姿の信一だった。
「あっ!」
慌てて逃げようと振り返った瞬間、今度は、私服姿の信二が居た。
俊介と小百合は、信一夫婦が宿泊している部屋に連れて来られていた。
そこには信二夫婦も居て、二組の両親を前に、正座で事情聴取を受けている。
「まあ、俊介の気持ちも分かるわよね。本当は、自分が俊介なのか幸平なのか。知りたいと思うのは当然だと思うし」
俊介達から事情を聴き終え、一海が言った。
「確かにね」
二海も頷く。
「どうする?」
「・・・」
「本当は、俊介が20才になってからって約束だったけど」
「うーん・・・」
「もう16なんだから、いいんじゃない?」
「そうね。いい機会だしね」
「何の話してるんだよ」
姉妹の会話の意図が分からず、信一が口を挟んだ。
「実は、分かるのよ」
一海が答えた。
「分かるって?」
「俊介が、本当は、俊介なのか幸平なのか」
「DNA鑑定か?」
「そんなんじゃなくて、もっと簡単な方法で」
「もっと簡単て?」
「ホクロ」
「ホクロ?」
「二人共、足の薬指と小指の間にホクロがあったの。普通にしてたら見えないんだけど」
「そんな所に?」
「うん」
「よく気付いたな」
「そりゃ、気付くわよ。母親だもん。水虫になったらいけないと思って、指の間まで良く洗ってたから」
「へー。凄いな、母親って」
「で、左足にあったのが俊介で」
「右足が幸平」
二海が言った。
「それを確認すれば、どっちか分かるって事か?」
「うん」
「えー!」
信一と信二が、母親の胎内で、まだ二つに分かれる前の受精卵に戻ったかの様に、寸分の狂いもなく、全く同時に声を発した。
少し遅れて、俊介と、ついでに小百合も。
「じゃあ、何で今まで黙ってたんだよ」
俊介が抗議した。
「それは・・・心の整理が付かなかったから。俊介だって、子供の頃に突然、あなたは本当は幸平なのよ、とか言われても困ったでしょ?」
「そりゃ、まあ・・・」
「何で、俺たちにまで黙ってたんだよ」
信二が、不満を漏らした。
「それは・・・どんな反応するか分からなかったし」
二海が、申し訳なさそうに話した。
「まあまあ。いいだろ、それは・・・二海ちゃんも一海も、いろいろ悩んだんだろうし」
信一が、信二をなだめた。
そして、
「どうする?本当に、確認していいのか?」
信一は、ゆっくりと皆の顔を見ていった。
一海・・・二海・・・信二・・・
三人とも、しっかりと信一の目を見て頷いた。
そして、最後に俊介。
信一と目が合うと、じっくりと考えてから、大きく頷いた。
「じゃあ、足洗って来るよ。汚いと悪いから」
俊介は、風呂場に向かった。
ズボンの裾をまくり裸足の状態の俊介が、風呂場から出て来た。
皆が、一斉に足を見る。
お湯で洗った為か、皆に注目されて恥ずかしかった為か、俊介の足は、ほんのり赤く染まっていた。
俊介は、皆の前に来ると、脚を投げ出すように座った。
そして、左足の前に一海。
右足の前に二海が、それぞれ陣取った。
「じゃあ、いくわよ」
一海は、皆の顔を順番に見ていき、最後に、二海の顔を見た。
「うん」
二海も頷く。
姉妹は、大きく深呼吸をした。
そして、
「せーのっ!」
掛け声と同時に、それぞれが、俊介の薬指と小指を持って、顔を近付けた状態で大きく開いた。
皆の注目が、一点に集まる。
「あった!」
と声を上げたのは・・・二人共だった。
「えっ!」
一海も二海も、声を上げるのは自分だけだと思っていたのに、隣からも聞こえてきたから、驚いてお互いの顔を見つめた。
「左足にあったんだけど・・・」
と一海。
「右足にもあったわよ」
と二海。
お互いの場所を入れ替わり、もう一度、指の間を確かめた。
「えー!?」
二人は、また、顔を見つめ合う。
「どういう事だよ?」
状況が飲み込めない皆を代表して、信一が聞いた。
「両足にホクロがあるの」
一海が答えると、
「えー?」
皆で、俊介の足の指の間を覗き込んだ。
すると、確かに、両方の指の間にホクロがあった。
「本当に、片足ずつにしかなかったのか?」
信一が、姉妹に確認した。
「なかったわよ。絶対!」
姉妹は、自信をもって断言した。
「じゃあ、いったい・・・」
皆が途方に暮れていると・・・
「亡くなった方の魂が、生き残った方の体に乗り移ったんじゃないですか?」
皆に救いの手を差し伸べるように、小百合が話し出した。
「乗り移った?」
俊介が聞き返した。
「うん。亡くなった方の子が、僕は、ここで死んじゃうけど、せめて魂だけでも、もう一人の子に乗り移って、これからも両親と一緒に暮らしたい。これからも六人で、今まで通り幸せに暮らしたいって思って」
「・・・」
「その証に、もう片方の足にもホクロが出来たんじゃないですか」
「・・・」
「だから、高木君は、俊介君でもあり、幸平君でもあるって事ですよ」
それを聞いた二組の両親の目からは、一人また一人と、涙が溢れ出していた。
そして・・・
「俊介!」「幸平!」
一海と二海が、それぞれ自分の子供の名前を呼びながら、俊介に抱き付いた。
「俊介!」「幸平!」
それに続いて、信一と信二も。
その重みに耐え切れず、俊介は仰向けに倒れた。
「重くて死ぬー!」
その後も続いた抱擁に、俊介は、必死に声を絞り出した。
その声にハッとなった二組の両親は、慌てて、俊介から手を放して起き上がった。
「大丈夫?」
一海が、俊介の体を撫でながら声を掛けた。
「ああ」
そして、少し落ち着きを取り戻した一海が、二海に提案した。
「これからは、お互いの家で過ごす時は、それぞれの名前で呼んで育てようか」
「いいわね!それ。もう高校生だから、混乱することも無いだろうし」
二海も同意した。
「そうだな」
信一と信二も。
「いいわよね。俊介も」
一海が、俊介に聞いた。
「ああ」
「幸平は?」
二海も、俊介に聞いた。
「ああ」
俊介は、幸平として答えた。
その姿を見て、
「やっぱり、幸平の方が格好良いわよね」
二海が、しみじみと言った。
「何言ってるの?俊介の方が格好良いに決まってるじゃない」
「どっちも一緒だろ」
俊介が、呆れたように言った。
「あっ、そうだ。二家族で過ごす時は、どっちの呼び方にする?」
一海が、二海に聞いた。
「そうね・・・一回置きでいいんじゃない」
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