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「ねぇ、優花は好きな人いる?」
友達の芹菜に突然聞かれた。
「え?い、いないよ」
顔が熱い。きっとこの嘘がバレるのは時間の問題。
夏休み。私の家でお泊り会。夜になるといつの間にかに始まっているコイバナ。
「あ〜、こりゃあ絶対いるな」
芹菜は得意気に言う。
案の定、バレてしまった……。
でも、私はこの恋を諦めようとしてる。だから、言ったところで……な……。
「で、誰なの?」
「秘密」
私は人差し指を口元に当てて言った。
「えー。もー。教えてくれたっていいじゃん」
「じゃあ、芹菜にだけだよ?」
私は芹菜の耳元で囁いた。
私の好きな人は隣の高校の男の子。高森唯月くん。中学の頃、隣の席になって仲良くなった。多分、私の片想い。
「えー!隣の男子校の子なのー?!」
「しーっ!芹菜声がでかい!」
私の通っている高校は女子高校、白雪女子高等学校。その女子校のすぐ隣にある高校が唯月くんの通う男子高校、青嵐男子高等学校。
「じゃあ、文化祭一緒じゃん!」
「え?」
「優花知らないの?学校説明会で言ってたよ。私達の女子校と隣の男子校は人数が少ない高校同士だから、合同で文化祭するんだってよ」
「え、そうなの?!初めて知った」
じゃあ、じゃあ。唯月くんとの接点があるの……?!
高校が離れちゃったから、諦めかけてたこの恋。
「しかも、クラス合同で出し物するんだよ〜。A組はA組同士。B組はB組同士。その唯月くんっていうのは何組なの?」
「え?知らない……」
「連絡とってないの?」
「連絡先知らない……」
私は、唯月くんの何も知らない。
「もー、優花シャイ!シャイすぎる!」
芹菜に肩を叩かれる。
「次の登校日にゲットするよ!次の登校日が文化祭の出し物決め兼顔合わせだから!」
なんか、私よりも芹菜が燃えている。
でも、私も楽しみ。文化祭、クラスはどうなのかわからないけど、廊下とかででも会えるといいな。
私達はA組。もし、もしも、唯月くんがA組だったら……‼
次の登校日は3日後。なんか今から緊張するな……。
好きな人のことについて、ずっと考えないようにしてた。
会えないのが辛いから、叶わない恋なのが辛いから、私のこと忘れられてたら辛いから……。
傷つくことが怖かったから。
でも、今は、今なら、少し考えてもいいよね?
なんだか幸せな気持ちになった。
「おはよー芹菜」
「おっはよ〜優花。2日ぶり〜」
あれから3日後。私は緊張してこの3日間あまり眠れなかった。
ずっと考えてなかった分、考えると胸がキュッてなって、何かが込み上げて来る、そんな気持ち。
「はーい、席付け。今日は隣の青嵐校のA組が来ている。早速入れ」
担任の先生が廊下に向かって支持した。
唯月くん……。唯月くん……。いるかな……。
私達のクラスは全部で13人、男子高校は11人って聞いている。
私は11人の男子達の中から唯月くんを探した。
い、いたー!
少し大人になってる。背が高くなってる。
これ、奇跡っていっていいよね……?
顔がまた熱くなる。
クラスの出し物は食品販売。8人グループを3つつくって3種類の食品を販売することに決まった。そのグループの中でも、4人ずつ前半と後半に分かれることになっている。
私は芹菜の力を借りて……、いや、芹菜が言ってくれたおかげで唯月くんと同じチームになった。
芹菜……。嬉しいけど、こっちは心臓がもたない。
そして今、8人みんなで何を販売するのかを話し合っている。
「よーし、何売る〜?たこ焼き?焼きそば?りんごあめ?」
「芹菜、お祭りになってるよ」
男子がいてもいつも通りの芹菜。
「えー?お祭りいいじゃーん」
「他にはー、パンケーキとかクレープとか?」
「甘いの苦手なやつどーすんだよ」
話し合いがどんどん進んでゆく。
私は緊張して、うまく話せないよ……。
なんだか唯月くんも上の空だし……。
連絡先も文化祭のチームとして交換することができた。
嬉しい。けど、緊張する。
次の登校日
結局、私達のグループは焼きそばを作ることになった。他はたこ焼きとお好み焼きだって。
お祭りみたいになったな。
今日はその焼きそばの試食会。
「あ、ソースなくなった」
「買いに行かないと……」
焼きそばを作って、試食を繰り返していたら、ソースがなくなってしまった。
「よーし、買いにいく人をくじ引きで決めるぞー!」
青嵐校の人が割り箸2本の先に赤い印をつけてくじ引きが行われた。
右手と左手、それぞれ4本ずつ握られていて、そのうち赤印がついているのは1本ずつ。つまり男女の買い出しということになる。
「せーので見るよ?せーの」
うわ……。私赤印ついてる……。
割り箸の先に赤い印。
「優花じゃーん!」
私の割り箸を見るなり芹菜が大きな声で叫んだ。
「お、女側は優花ちゃんか。男は?」
「あ、俺」
え……。嘘。唯月くん?
「唯月か〜。じゃっ、唯月の奢りでソースとジュース」
「え、ジュース?」
「いや〜、みんな喉乾いたよね」
「マジかよ」
私と唯月くんは買い出しをするために外に出た。
唯月くんと並んで歩く道。唯月くんが隣にいる。
「久しぶりだな。二人で話すの」
「え!うん。そうだね」
緊張して話せないよ……。
顔が熱くなってるのがわかる。自分でも赤くなっていることがわかるくらいに……。
「高校生活どう?」
「楽しんでるよ。唯月くんは?」
「あぁ、俺は楽しんでるよ。男ばっかでジャングルみたいだけどな」
唯月くんが笑う。笑ってる顔もかっこいい。
「ジャングルって……。」
「いやー、本当にそうだぞ?女子の前だからあんなんだけどよ。いつも野生の動物って感じ」
今まで、唯月くんが男子高校だから気にならなかったけど、唯月くんに彼女っているのかな……。
男子高校に通ってても、彼女いる可能性……おるよね。
「あはは……。野生……。彼女いる友達とかいるの?」
よし、自然な流れで聞き出そう。今まで自分の中で感情を消してきたんだからできるはず。もし唯月くんに彼女がいたら諦めよう。
諦めようとするのはすごく辛かった。でも、叶わない恋をずっとしているほうが、もっと辛い。
「彼女か〜。ほんの数名だな。」
「そうなんだ」
「唯月くんはいるの?」
「彼女はいないけど、好きな人はいる」
唯月くんが照れながら言う。
え……。言葉にできない感情がみるみる心を支配する。
心臓がドキンドキンいってる。
あぁ、これはどうしたらいいんだろうか。
やっぱり、諦めるべきなのだろうか。
私はどうするべき?もう辛いのは嫌。
どうして人を好きになってしまったのだろう。人を好きになるって、こんなに辛いことなんだ……。
「へぇ、そうなんだ。頑張ってね!応援してる。」
精一杯の明るさと精一杯の笑顔だった。
唯月くんはうつむいていた。
「あ、おっかえり〜」
結局あのまま、あまり会話のないまま帰ってきてしまった。
芹菜にウインクをとばされたからニコッと笑っておいた。
「はい、これ、ソースの領収書ね。クラスの会計に出す方。んで、こっちがジュースの領収書、並びに請求書となります」
「えっ、お前の奢りって言ったじゃねーかよ」
唯月くんが友達に領収書を出している
かっこいい。そう思ってしまう。
次の登校日
今日は屋台の看板とかメニュー表を作っている。
「なぁ、メニューって焼きそばしかなくね?」
「塩焼きそばもつくる?」
「いや、今から無理だろ。サイズ変えて売ればいいだろう?大、中、小。」
「おー、お前あったまいい〜」
文化祭の準備で忙しい中、私は心が忙しかった。
1度思い出してしまって諦めきれないこの気持ちと辛い思いをしたくなくて諦めたいこの気持ち。感情がぐるぐるぐるぐるして私の心を支配する。
「ちょっとトイレ〜」
芹菜がトイレに抜けた。
「あ、俺も」
続いて唯月くんも抜けた。
なんだか唯月くんがついて行っているみたいだった。
もしかして……。唯月くんの好きな人って芹菜……?
はぁ……。もし、芹菜だったら……。芹菜、明るくて可愛くて……。私は芹菜よりも……。
「ただいま〜」
二人が戻ってきた。なんだか変な緊張感がある。
もう、考えるの疲れちゃった。
始業式
「おはよー優花」
「おはよう」
夏休みも終わって、今日は始業式。
芹菜は普通に接してくれるけど、もし唯月くんの好きな人が芹菜だったとしたら……。
私、この先どうしたら……。
「始業式の後、文化祭の準備できるみたいだけど参加する?」
「え?うん。行こうかな」
文化祭の準備……。また緊張するのか。断る理由もないから行くって行ったけど。正直疲れちゃう。
「よっしゃ、今日は前半と後半決めようぜ。くじ引き作ってきたから、みんな引いて引いて〜」
チームのリーダー的な青嵐校の生徒、岸本圭太くんが仕切る。
前半と後半。唯月くんと同じになりたいようななりたくないような……。
一緒に回ることができなくても、せめて一緒に焼きそばを売ることができたら……。
だけど、緊張して……。もっと、好きになってしまいそうで。
唯月くんが芹菜を好きならもうこれ以上、好きになれない。
「割り箸の先、赤と青に分かれてるからな。俺、赤〜」
圭太くんが言う。
「あ、私も赤ー!優花も赤じゃん!やった!一緒!」
芹菜が嬉しそうに言う。
あぁ、あともう一人……。
「俺、赤」
唯月くん……。唯月くんも赤みたい。
また緊張することが増えてしまった……。
唯月くんの好きな人について考えてから約1ヶ月がたったころ、白雪高校、青嵐高校合同の文化祭が開催された。
「よーし、焼きそば、売りまくるぞー!」
私達は前半チーム。芹菜はハチマキなんて巻きつけて気合が入っている。
「あ。ちょーっとそこのお姉さん?俺の焼きそば、食べていかない〜?」
「ちょ、圭太それじゃナンパ」
圭太くんに芹菜が突っ込む。
芹菜はすごいなー。圭太くんとも仲がいいみたいだ。
「ほーら、優花も唯月くんも、ボーッとしてないで呼び込みしてきて!」
芹菜は私に呼び込み用にダンボールで作った簡易看板と唯月くんにメガホンを私で背中を押された。
「行こうか」
唯月くんに言われる。緊張してるのが自分でわかる。
私達は教室のすぐ隣の階段を降りて呼び込みをすることにした。
「焼きそば、いりませんかー?」
「美味しいですよー」
「是非、1Aの教室へ!」
ありきたりな呼び込みをすすめていく。
緊張してうまく話せない。
私達は各フロアを1周して教室に戻ることにした。
「なぁ、後半、誰かとまわる予定ある?」
「え……?!ない、かな」
「じゃあ、これ」
唯月くんにメモ書きを渡された。
なになになに?突然のことで頭と心が追いつかない。
「おっかえり〜優花、唯月くん!」
「ただいま」
私は私達の荷物が置かれているバックヤードでこっそり唯月くんに渡された紙をみた。
『優花。今日の文化祭、一緒にまわってほしい。もし一緒にまわってくれるなら1階のF組側の階段横に来てほしい』
丁寧な、きれいな字で書かれたこの紙。
しかも、私の名前入り。唯月くんと一緒にまわれるの……?!
私は胸が高鳴る。1階のF組側。わざわざ反対側の階段なのは、何か理由があるのかな……?
「あー、ちょっと休憩」
芹菜が飲み物を飲みに入ってきた。
私は急いで紙をポケットにしまった。
「あ、優花。私と圭太で呼び込みしてくるから店番よろしく」
「え!う、うん。わかった」
「よっしゃ!はーい、みなさん!お腹は空いていませんか?ちょっと休憩したくないですか?そんな方は是非1Aの教室へ!」
芹菜と圭太くんは呼び込みながら教室を出ていった。
芹菜はうまいなー。呼び込み。
唯月くんと二人きり。緊張がとまらない。
「いらっしゃいませ」
気がついたら物凄い行列になっていた。
芹菜達の呼び込み効果は抜群だった。
「ただいまー。うわー、すごい列!」
芹菜たちが戻ってきた。
もうすぐ11時。前半と後半が交代される。
「おまたせ〜!交代しよってうわぁ、すごい列!」
後半のチームが戻ってきた。
「いや〜、たくさん呼び込んだよ」
「よーし、あとは任せて遊んておいで」
前半と後半が交代した。唯月くんとまわれる。
すごく嬉しい。
私は1F側の階段に向かった。
「来てくれたんだ」
唯月くんの顔が赤くなる。
なんだろう。なんで私とまわりたいんだろう。
「うん」
私の顔熱くなる。
私達はそれぞれの行きたい場所をまわっていった。
緊張したけど、夢みたいな時間だった。
「次、お化け屋敷行こうか」
「うわ、楽しそうじゃん」
私達はお化け屋敷の3Cの教室へと向かった。
「あれ?優花と唯月くん!」
「芹菜!と圭太くん」
お化け屋敷の最後尾に並んでいるとその後ろに芹菜と圭太くんが二人で来た。
「ちょっと、唯月くん、こっち来て」
芹菜が唯月くんの腕を引っ張ってどこかへ行ってしまった。
芹菜……?芹菜、どうして?
「ごーめんごめんただいま」
しばらくして芹菜と唯月くんが戻ってきた。
なんの話をしてたんだろう。
芹菜、唯月くんに告白してたりして。
いやいや、芹菜は私の唯月くんとの恋を応援してくれてたし……。
でも、応援しすぎて自分が好きになっちゃったパターンもよくある……。
やっぱり、諦めたほうがいい。もとから、諦めようとしてたんだもん。
唯月くんと再会する前に戻るだけ。自分の心をおさえるだけ。
恋心を消すって簡単なことじゃないけど、でもそれでもやってきたこと……。
「はーい、このライトをもって、入ってくださいね〜。さぁ……あなた達はこの屋敷を生きて帰って来られるかな……?」
お化け屋敷の自分たちの番が来た。
うわぁ……本格的。なんか少し怖い。
ドアを開けるとすごく本格的なお化け屋敷だった。さすが3年生。
どうしよう。怖くて歩けない。先にすすめない。
高校の文化祭でここまでのクオリティーは初めて。
「手、つなごう」
「え?」
唯月くんが手を引いて歩いてくれた。
安心する、大きな手。
やっぱり、再会する前に戻るなんてできない。
感情を押し殺すのも限界。
「はぁ、怖かった〜」
「結構本格的だったな」
私達はゴールを迎えた。
「ちょっと休憩しようか」
「うん!」
唯月くんが休憩に誘ってくれた。
「こっちきて」
「え?」
唯月くんがパソコン室の方へと案内する。
パソコン室とかそっちのほうは、今日は立ち入り禁止のはずじゃあ……?
立入禁止のパソコン室前。
「唯月くん、ここで休憩するの?」
「いや、あのさ、優花」
「ん?」
「優花、俺と付き合ってほしい」
「え……?え?!」
ちょっと待って、なんで?!唯月くんの好きな人は芹菜なんじゃないの?
「中学の頃からずっと好きだった」
「だって、あの時、一緒に買い出し行ったとき、好きな人いるって……」
「それが優花。本人に言えないだろ……」
唯月くんが照れながら下を向く。
「で、返事は……」
「好き……。私も唯月くんがすごく好き。中学の頃からずっと、ずっと」
私は涙が溢れた。気づいたら溢れてた。
唯月くんは何も言わずに抱きしめてくれた。
「芹菜じゃなかったの?」
私は少し落ち着いてから口を開いた。
「え?なんで?」
「芹菜のこと追いかけてるように見えた」
「トイレの時?」
「うん」
「あれは、優花のこと、相談してた」
「そうなの?」
「うん。で、さっきも」
「ねぇ、唯月くん?優花のこと好きなんだよね?」
「うん」
「優花に告白とかした?」
「いや、まだ……」
「告白しないと、優花の恋、消えちゃうかもよ」
「は、え?」
「優花、あの子は唯月くんが私を好きだと思ってるっぽいし、優花諦めようとしたらそっちに傾いちゃうよ。両思いのうちにさっさと告白しな」
「って言ってくれて、それで……」
「芹菜……」
ちょうど芹菜と圭太くんがお化け屋敷から出てくるのが見えた。
私は芹菜のもとへ走り出した。
私はいい友達をもった。いい親友をもった。
「芹菜!」
私は芹菜に抱きついた。
「え?優花、どうしたの?」
「ありがとう、芹菜。芹菜……」
私は、私達は芹菜のおかけで付き合うことができた。
芹菜が恋のキューピッド。
芹菜の恋は、また別のお話。
芹菜、今度は私の番だよ。
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