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「大丈夫?」
「うん。少し疲れただけだから……」
そう言うと彼女は一呼吸した後、僕を無視して階段の手すりに掴まりまた歩き出そうとするが、彼女の体はまだふらついている。
走らせてはいけない。
看護士の言葉が脳裏をよぎり、これ以上は彼女の身が危ないと悟った僕は、彼女の手を掴んだ。すると、彼女は振り返り、驚いた表情を僕に見せた。
「……か……かずき……くん?」
彼女の顔色は少し青白く、掴んだ手に触れた浴衣は汗ばんで少し湿っていた。
ゆっくりと呼吸をし始めたあたり、本当に少し疲れただけで、体調が悪くなったわけではなかった事に一安心をしたが、僕はそんな彼女に嫌悪感をいだいてしまう。
自分の事のように思っていたのかもしれない。
「大丈夫だよ」
「……え?」
彼女の手を優しく握り、たしなめるように彼女にこう呟いた。
「花火までもう少しだがら。だから、一緒に見ようよ。花火」
本当はこう言いたかった。
「無我夢中で見たい気持ちはわかるけど、1人で楽しまないで2人で楽しみたい。今日見る花火は、初めてのデートのようなものだから、ここで具合が悪くなって見られなかったなんて、僕は嫌なんだよ」
そう言えればいいのだけど、こんな直球な言葉を僕はカッコよく言えない。
だから、遠回しで彼女に想いを伝えた。
「……え?」
しかし、彼女はわからなかったようなので、仕方なく僕は少し照れくさそうにもう一回、本心を言うことにした。
「初めてのデートだろ……」
少しカッコつけて照れくさい感じで言ったせいか、彼女は驚いて頬を少し赤くしながら、目を丸くしてマジマジと僕を見つめた。
彼女の心理を理解した僕は、余計に恥ずかしさが倍増されて、行き場のないこの感情を彼女に悟られないように、僕は必死で平静を装った。
「……ごめんね。1人で舞い上がってた」
「……わかってくれればいいよ」
「うん……」
繋いだ手をぎゅっと握り返して僕の気持ちに答えくれる彼女。
いつも学校では、彼女の方が積極的で僕に
話しをしてくるし、勝負事だって仕掛けてくる。じゃんけんして勝った方が言うことを聞く決まりなのだが、僕は1度も勝った事がない。
そんな彼女が、あの病院での出来事で、僕に弱い所や不意に可愛らしい姿を見せるからなのか、彼女に勝ち続けているような錯覚におちいった僕はつい、こんなことをしてしまった。
「じゃあ、行こうか」
彼女に微笑んでから繋いでいた手を離し、もう一回繋ぎ直した。
すると、彼女の血色がよくなって頬はだんだん赤く染まっていく。
彼女は、それが恋人繋ぎたどわかった途端にだ。
「顔、赤いけど?」
「一希君だって、人のこと言えないじゃんかぁ……」
「まあ、確かにね……」
わかりやすい彼女の反応を目の辺りにして現状を理解した僕は、自分から恋人繋ぎをしたくせに急に彼女の事を意識しだし、身体中が燃えるように熱くなっていった。
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