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「次は、海が丘総合病院前~」
「…………あ」
ささやかに導く声に呼び起こされて瞼をゆっくり開くと、薄暗い世界に少しづつ光が差し込んだ。突然の光は寝起きの僕にはとても眩しく思えて、目を細めながら光を少しづつ受け入れた。
徐々に光に慣れ始めると、その先で待っていたのは、広大な海と梅雨明けした太陽が僕を見つめて、太陽の光に屈折した水平線はキラキラ光っていた。それは、風に吹かれた風鈴がチリンっと緩やかな音を鳴らしユラユラ揺れ動くように、夏の風情を感じさせた。
目元を手で軽く拭いながら、停止ボタンを押すと、しばらく意識がボーッとして何も考えられなかった。
ただ、1つだけ頭の中で映像が流れていたのは、うっすら覚えている懐かしい夢だった。
夢とは不思議なもので、寝ている時はハッキリ映像を覚えているのに、目覚めてしまうとぼんやりとしか思い出せい。せっかくいい夢を見ても時間が過ぎたら忘れてしまうように、僕の思いでもいつかは夢と同じように、長い時が進むと忘れてしまうのだろうか。
夢現状態から抜けだせないない僕は、懐かしい記憶と夢を重ねる事を繰り返し、目的地につくまでしばらくは、感傷に浸りつづけるのだった。
「海が丘総合病院前~」
運転手にお礼を言いながら整理券とお金を投入口に入れてバスを降りると、生暖かい風が突然吹いて、僕の背中に当て付けながらバスは、次の目的地に向けて走り出した。
横目でバスを見送った後、僕はそのまま前進して、目の前にあるお店に入った。
「すみません」
「いらっしゃいませ~」
声をかけると、花を持った店員さんがニコニコしながらこちらに近寄ってきたので、あることをお願いした。
「花束を作ってほしいんですが」
「何にしましょうか?」
花屋である店内には、ショウケースに暖色から寒色までの色々な花が束になって、別々の容器に種類分けされて大事に保管されていた。僕はその中のある花を見つけて指を差した。
「すみません、その花をこのぐらいの花瓶に入るくらいお願いします」
手で輪っかを作り、花瓶の口の大きさを表すと、店員は「わかりました」と、ショウケースから淡い青紫の花を何本か取った。それを束ねると水を湿させたペーパーを茎の切り口に巻き付けてアルミホイルで包み、最後に包装紙で花を巻き付けテープで止めて、花束をあっという間に作りあげた。
「こちらでよろしいですか?」
「はい」
淡い青紫色で中心は黄色いその花は、彼女と同じ名前で姿も似ていて可憐で美しいかった。
お金を払い、折れないように店員から花束を優しく受け取りお礼を言うと僕は、急いで彼女の元に向かった。
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