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僕には彼女がいる。
同い年の可愛らしい彼女が。
彼女との出会いは高校1年の時。同じクラスになって、出席番号順に並べられた席は2人とも前後だった事から始まった。
最初の頃はそんなに会話することもなかったが、徐々に話すようになった。きっかけは特にない。ただ朝に、自分の席に行くと必ず目があって挨拶をされて、そこから徐々に仲良くなると彼女から話しかけては、僕をからかってる。そんな関係性だった。
彼女は明るく、よく笑う子だ。暗い僕とは正反対で友達も多かった。
そんな彼女がある日を境に学校に来なくなった。担任の先生も特に何もいわず、彼女の友達もなぜ学校を休んでいるのかを知らなかった。
そして僕もある日を境に、とても大切な事に気づくことになる。それは1学期 期末テストが始まる頃だった。
当日、彼女が学校を休んでから数日経って、初めての席替えが行われた。そこで僕の席と彼女の席は遠ざかった。
その時は特になんとも思ってもなく、ただ彼女は1ヶ月も休んでいる。そのぐらいの事しか思っていなかった。
1学期 期末テスト、当日。出席番号順に座る事になり、久しぶりに僕の前の席は彼女になったが今日も彼女は現れなかった。
そして、テストが始まる5分前。先生は、先頭にいる生徒にテスト問題を人数分配ると、受け取った生徒はいつものように自分の分を取ったら後ろの席の人にプリントを回す。
ただ、それだけの作業なのに、僕は不思議と胸の中が苦しくなった。
席に彼女がいたのなら、彼女からプリントを受けとるのに、今日は彼女がいない席を飛ばして別の人がプリントを回してくる。
その時感じた心の違和感に僕は、ハッとさせられたのだ。
彼女の振り返った瞬間の横顔は妙に色っぽく、いつも頭頂部に近い位置に結ばれたポニーテールの先は小刻みに揺れる。振り返った時の不意に見せる口角を上げた桜色の艶やか唇が原因なのかは、わからない。
けれど「はい!」、と優しく笑いかける彼女の笑顔に僕はいつもドキドキしていた。
ああ、なぜ彼女はいないのだろう……
僕は秘かに彼女に想いを抱いていたのだと、プリントを手に取った瞬間に気づいたのだ。
そう、いつも思っている。
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