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「突然のお見舞でごめん」
手に持った花束を胸に掲げて一言いうと、そこにいるはずの彼女は返事をしない。
部屋を間違えたかと不安になった時、彼女の声が聞こえ、こんな事を言ってきた。
「え、誰?」
僕はびっくりした。
何にびっくりしたかって、目の前には彼女ではなく花束のラッピングが見えたのだ。
そう、緊張していた僕は思わず目を瞑ったまま花束で自分の顔を隠していたのだ。
「……僕だよ」
顔を真っ赤にして花束からひょっこり顔を出すと、そこには前より華奢になった彼女が目を丸くしては「なんだ、君か~」と、ベットの上で嬉しそうに笑っていた。
「さっきも言ったけど、いきなり来てごめん」
お見舞の花束を花瓶に差して彼女のベッドサイドにあるボードに置くと、生けられた花を見つめては「大丈夫だよ」と笑顔で笑いかけてくれる彼女だか、そこからは会話が一向に進まなかった。
予告なく来たせいもあってか、お互いに緊張して目も合わせられなく、行き場を失った視界は自分達の手元を見る事に定まってしまった。
しかし、その現状も数分で破られる事になる。
「……お見舞、来てくれてありがとう」
第一声は彼女からだった。
「……あ、うん」
言われた事に返事をして、この流れに乗るように、今度は自分の手元を見るのではなく、相手の顔をしっかり見て喋ろうと僕は彼女に目線を向ける。すると、今の彼女は学校での姿とは少し違い、普段はポニーテールなのに、今は髪を下ろしていた。
顔色は普段と変わらないが、僕は彼女のある変化に気づく。
「頬が赤いよ? 熱でもあるなら先生呼ぼうか?」
ここに到着した時よりも彼女の頬だけは熱を帯びたように少しだけ赤く染まっていたのだ。
具合が悪いのかと心配になって教えてあげると彼女はむしろ、驚いた顔をしてブンブンと首を横にふった。
「違うよ、これは。全然、違うから……」
「大丈夫ならいいんだけど……」
病状か薬の副作用のせいなのだろうと僕なり考えていると、彼女は小言で何かを口にする。
何を言っているのかわからないので、耳を澄ますと、こんな事を言うのだ。
「……から」
「え?」
「一希君に会えたから……」
僕の顔は一瞬で熱を帯びた。
「……あ、今日は暑いからね! なんだか僕も顔が赤くなってきたよ~」
さっきまでの沈黙から急な展開に僕は驚き、暑くなった顔を手でうちわのように扇いだ。照れた事を彼女に悟られないように。
けれど、彼女は僕の事を気にも留めず、頬が赤く染まったまま、かぼそい声で話し続けた。
「先生からココを教えてもらって、会いに来てくれたんだよね?」
そう言うと、自分の手元を見つめては両手の指の腹をお互いにくっ付けは、人差し指だけを付けては離してを繰り返し、なんだか落ち着きがない様子で僕に問う。
「……うん」
学校とは違う彼女の態度に、なぜ彼女はそんなことを聞くのかと不思議に思いながら返事をすると、彼女は平然と僕にこんな事を言うのだ。
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