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「……わぁ!?」
病弱な体なのに彼女の引っ張る力はとても強く、さっきまで座ったいたイスは僕の足に引っ掛かって大きな音をたてて床に倒れると、僕も同じように、彼女のベットの上に倒れこんだ。
「…………」
お互いの体が重なり合い、身動きは取れない状況下で僕と彼女の目と目は合い、目が飛び出すのではないかと思うくらい僕達は目を見開いた。
お互いの距離は近く、彼女の瞳の中の瞳孔は瞬時に大きくなって、彼女の唇は柔らかいのだと、今の僕にはそれしかわからなかった。
「……ご、ごめん!!」
急いで彼女から離れる。
けれど、彼女がそれを阻止するように再び僕の腕を掴んで離さない。
「ごめん、本当にごめん!!」
再び謝っても彼女は僕の腕を掴んで離さなく、下を向いては黙りつづけた。
僕はこの状況にどう対応すればいいのかわからなく、彼女はうつ向いたままで何を思ってこうしているのかさっぱりわからなかった。
ただ、彼女の唇を奪ってしまったのだから、怒っている事に間違いないだろう。
事故だとしても、彼女の気持ち無しでいきなりされたのだから、漫画みたいに平手打ちがきてもおかしくない状況だ。
「一希君……」
彼女の震えた声が聞こえた瞬間、僕の背筋が凍った。
彼女が徐々に顔を上げはじめる。自分の頬に痛みがくる事を受けいるしかない。僕はぎゅっと目を閉じた。
「…………」
しかし、しばらくしても頬に痛みが感じる事はない。そっと片目を開けると彼女の顔がうっすら見えた。
恐る恐る両目を開けると、彼女はさっきまでとは違う温度差で僕にこう言うのだ。
「……明日も、来てくれる?」
「……え?」
震えた声とその質問に僕は一瞬、こう考えた。
彼女は手を掴んで僕を引き留めたのは、そのまま逃げてしまうのではないかと思って、とっさに出た言葉ではないのかと。
けれど、今の彼女をよく見ると、そうではないのだと瞬時にわかって彼女に僕はこう返事をすることした。
「……うん。明日も、明後日も、絶対に来るよ」
彼女の嘘は自分の臆病な部分を隠す為のものであって、彼女が僕を想う事に変わりなく、普通に恋する女の子に見えた。
泣きそうな表情で僕の返事を待っている彼女に、それ以上の言葉はもう必要ない。だから今度は、僕が彼女の気持ちを受け取る番だ。
「……約束だよ?」
「……うん。約束」
結局僕は勇気が出なくて、彼女になぜ入院しているのか聞く事が出来なかった。
聞く勇気はなかったけど、僕はもう一度、彼女と向き合う勇気を取り戻し、目を瞑る彼女に顔を近づけてそっと、約束の口づけを交わしたのだ。
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