夜空に咲く

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今になっても相変わらずで、彼女の病状については話を聞いていな。  聞いていなというより聞こうと思っても、僕には病状を知られたくないからか、話題を出しては散々とはぐらかされてしまうからだ。  仕方なく病院側にこっそり聞こうとしても、身内ではない事に患者の個人情報は教えてくれない。  いや、たぶん彼女が担当看護士に口止めさせているのだろう。一回聞いたら、はぐらかされた。  しかし、患者の体を一番に考える看護士は1つだけ僕に教えてくれた。 それは、あまり走らせてはいけないと。  今の彼女がどれぐらい無茶をしたら体に影響を及ぼすのかは、僕にはわからない。  もし、今の彼女が歩くペースを更に速くするなら無理にでも止めないといけないのに、僕は彼女に注意する事を躊躇(ためら)ってしまう。  彼女の心情を考えると、外に出られない中で今日の花火を見ることは彼女だけではなく、ここに入院している人もこの1年間で楽しみしてる行事かもしれない。  僕みたいな健康な人でも、花火大会なんて言葉を耳にしたら楽しみにするほど、花火大会は日本の夏の風物詩なのだから。 「わかったから!そんに、走らないで!」 今日ぐらいは少し多めに見てもいいのだろうと思っている中で、目の前に映る彼女の姿が今日だけ特別だと思えるとずっと見ていたい自分がいる。  そんな彼女を僕は心配しつつも、優しい眼差しで見守る事にした。 行列に紛れて歩くこと数分。屋上に向かう最後の階段に到着した。  見上げると、開放されたドアから青紫の夜空に雷が落ちたような薄暗い光がチラチラ見えると、空気が抜けたような大きい音が続いて聞こえてくる。 「もう、始まってる……」 「そうだね」 一言そう言うと彼女は浴衣の裾を軽く持ち上げて、また僕を無視して階段を焦りながら登り始める。下駄靴の音はさっきよりも速くなった。 「待って!」 僕もそれに続いて階段を登ると彼女は急に立ちど待った。  すぐに追い付いて隣に行くと彼女は、体を少しふらつきはじめながら、寄りかかるように僕にぶつかった。
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