王道転校生ですよ。一匹狼くん

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桜咲 梨沙side 理世くんを追って廊下に出ると、小さくなっていく背中が見えた。はやっ!ちょっと待ってよ。俺が追いついたのは昇降口でだった。 「理世くん。」 「すみません。一人にしてください。」 「ねえ理世くん聞いて。紗夜くんもね。余裕がなかったんだよ。」 「…そんなのわかってますよ。手を出さなかったの褒めてください。」 「うん。偉かったね。えっどこ行くの。」 「どこでもいいでしょ。」 「ついてっていい?」 「好きにしてください。」 「理世くんって優しいよね。」 「どこがですか。バカにしてます?」 「真面目に言ってるんだけど。俺を無視しないとこ。」 「梨沙さん無視する人なんていないでしょ。」 「いるよ。たくさん。…理世くんが思っているより世界は残酷だ。」 「梨沙さん…」 「まあ今は幸せだからいいけどね。それより…ここは?」 「あいつの部屋ですよ。」 「あいつって…慎くん?えっ入れるの?何で?」 「合鍵です。随分前に貰いました。」 「へーお邪魔します。うわなにこれきたなーい!」 「多分あの(ガキ)がやったんですよ。あいつの同室あれだったから。」「ウソ⁉︎俺あれとは生活できない。したら死ぬ。」 「でしょうね。あいつもそう頻繁には部屋に帰ってませんでしたよ。っとこっちだったか。」 理世くんが開けた扉の先には起きたままぐしゃぐしゃになったベッドと備え付けられた机、クローゼットだけがあった。それなりに広い部屋だ。生活感といえばベッドぐらいしかない。 「何にもないね…」 「もともとですよ。あいつの場合。」 理世くんは部屋には入らずに、踵を返すと共同スペースの片付けを始めた。「梨沙さん、俺に言いましたよね。どうやら君は慎くんのことが好きみたいだからって。当たってますよ。俺もさっき気付きました。…紺野に言われて、カッとなって。ほんっとガキですよね。っ痛!」 「どうしたの⁈」 「あの野郎、ガラス割ってそのままかよ!」 「診せて。」 手にとった理世くんの手は僅かに切れていた。俺はキッチンへ行きタオルを濡らして理世くんの手を包む。 「ごめんね。本当は消毒した方がいんだけど。」 「大丈夫ですよ。このくらい。」 「ダメだよ。跡になっちゃう。」 理世くんはされるがままになっていた。 「俺ね。パートナーがいるって言ったじゃん?恋人じゃないの。パートナー。この意味が分かる?」 俺は理世くんの返事を待たずに続ける。 「共依存だよ。俺はりっちゃんがこの世にいないと生きていけない。精神的にね。りっちゃんも俺がいないと生きていけない。まありっちゃんの場合は物理的に。俺がそうした。でないと俺は息ができないもの。でもね。お互い何も思ってないわけじゃないの。俺はりっちゃんのこと好きだよ。大好き。だからこそりっちゃんに依存してる。だからって理世くんになにが言いたいわけでもないよ。俺とりっちゃんのように慎くんとなれなんて口が裂けても言えないし、そんなことを言いたいわけでは決してない。ただそういう関係もあるんだよって。 慎くんはなんでもできる子だからね。一人でだって生きていける。でもね。誰かがそばにいなきゃダメなんだよ。慎くんをよろしくね。」 「正直その誰かっていうのは俺じゃなくてもいいと思います。」 「理世く——」 「でもっ俺があいつのそばにいたいです。」 「…うん。」 「好きって言いましたけど、どこが好きって訊かれるとわかんないんです。あいつの強いとこも頭いいとこも綺麗な髪も…弱いとこも。…全部、好きです。」 「うん。」 俺は理世くんを抱きしめた。 「ちょ梨沙さん。浮気ですよ。いつか律華さんにちくりますよ。」 「それはやめて!」 パッと離れると理世くんは笑った。 「ククッ冗談ですよ。」 「もう!本当やめてよ。」 「梨沙さん。帰らなくていいんですか。」 「今日もきっと泊まりだよ。明日ちゃんと慎くんの様子見てくるから。理世くんは帰らなくていいの。」 「俺は…ここの片付けして帰ります。」 「分かった。気をつけてね?」 「はい。梨沙さん。ありがとうございました。」 「ふふっじゃあね。」 俺は理世くんを残して理事長室に戻った。
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