夏休みですよ。一匹狼くん

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「ぐーーっ」 不意に誰かのお腹が鳴った。結奈が顔を真っ赤にしてお腹を押さえている。それを見た慎は笑いだした。 「クッハハハハッ悪いな。結奈。お腹空いたな。昨日の夜からなんも食ってないもんな。唯義兄。この人上まで運んでくれ。…そうだな。椎名、美紅、手伝ってくれるか?」 東くんは慎を抱えたまま眠っていた。東くんを唯義兄に託して椎名と美紅を連れてキッチンへ向かう。 「もうお昼ご飯の時間だな。さて、何が——って義姉!なんでインスタント食品しかねえんだ。」 「私、料理しないもん。」 「もんじゃねえよ。それもしないってなんだよ。できないじゃなくてしないかよ。」 「できないからしないのよ。昔は楓も義父(とう)さんもいたし、去年までは貴方がいたし、その前までは梨沙がいた。」 「だからできないって?よし。椎名、美紅、今から言うとおりに動け。まずは——」 出来上がった昼ごはん——パスタとサラダとスープを見て私は感嘆のため息を吐いた。 「言っとくが俺は手ぇ出してねえからな。全部椎名と美紅が作った。っておい。聞いてんのか。挨拶くらいしろ。」 「美味しいよ。椎名お姉ちゃん!美紅お兄ちゃん!」 「すごいわ。椎名!美紅!貴方達これから料理当番ね。」 「美紅とは嫌。」「椎名とは嫌。」 「仲良くしろよ。っと俺、上、上がってくんね。」 立ち上がるもふらつく義弟を支える。 「貧血だな。」 「馬鹿じゃないの。失血よ。どんだけ血ぃ流れてると思ってんの?ほら、なんか腹に入れなさい。」 「無理。今なんか食ったら吐く。」 「ったく、葵、冷蔵庫から水のペットボトル持ってきて。」 「「はーい。」」 「あー茜は行かなくていいのよ。」 茜と葵がとってきた水を渡す。半分ほど飲み干して、ペットボトルを机においた慎の顔は青褪めていた。 「ほらさっさと上、上がって寝なさい。どうせ昨日寝てないんでしょ。」 チビ達を義兄に任せて一緒に階段を上がった。 「悪かったな。取り乱してカッコ悪いとこ晒して。」 ポツリと呟いた義弟の顔は随分とひどいものだったが、それでも穏やかだった。義兄さんや楓の前では取り繕われる表情。でもそれは義兄さん達を想ってのものだ。 「いいじゃない。たまにはカッコ悪いお兄ちゃんでも。というかそっちの方が可愛げのあるになるわ。貴方はお兄ちゃんである前に私達の弟なんだから。」 「そうだな。おやすみ。お姉ちゃん。」 慎は笑って目を閉じた。 黒瀬 慎side  目が覚めたとき辺りは夕焼けの紅い光に包まれていた。数度瞬いてゆっくりと体を起こす。静かだった。隣のベッドにはまだ理世が眠っている。理世の顔を覗き込む。ほんっと綺麗な顔だな——突然腕が引かれて俺がしたようにされど俺がしたときより優しくベッドの上に引き倒される。 「俺の寝込みを襲うとはいい度胸だな。」 俺が吐き捨てた言葉をその低く響く綺麗な声で優しく呟いて笑った。俺も笑い返した。自分でも不器用だなと思う梨沙義兄を真似た笑みで。 「馬鹿じゃねーの。」 彼が何かを言い返す前に腕を伸ばして彼の頭を引き寄せる。触れるだけのキスをして。自分からしたくせに彼の顔が見れなくて。言葉を投げる。 「寝ろよ。まだ熱い。」 「夏だからだろ。」 「理世。悪かったよ。今までも。昨日も。」 「お前、俺の顔狙わなかったろ。」 「綺麗な顔だからな。国宝級の。」 「お前に褒めてもらえるとは光栄だな。」 いつかと同じような会話をして。いつかと同じように笑って。 「お前厨二病だな。なのになんか成長したか?」 「うっせ。しゃーねーだろ。声変わりだよ。俺は遅かった。丁度新歓準備辺りからだ。」 俺の左腕は椎名に縫ってもらった。思わず外科医になれるぞ。と言ってしまったほど綺麗に縫われている。上になっているのが辛そうなので頭に手を回したまま体を反転させる。彼の顔をもろに見てしまって。 「綺麗だよ。声。」 「どうも。理世、マジで寝ろ。顔が赤い。」 「誰のせいだよ。俺が口説いてんのに流しやがって。」 「ほんと寝てくれ。理性が飛ぶ。」 「俺を喰おうって?やってみろよ。」 俺は黙って理世を喰った。熱い呼吸さえ奪うように。ともすれば相手わ殺しかねない勢いで。 「口開けろ。」 「ふ…開けて…みろよ。」 「チッ」 俺は理世の鼻頭を噛んだ。 「ウッ…あっ」 開いた口に舌を滑り込ませ、絡める。一生懸命に応えようとする理世にますます歯止めが効かなくなる。 「慎…ふ…ぁ」 「黙れ。煽んな。」 腕の傷が裂けた。構わずに続ける。つうと血が流れてシーツを紅く染める。それでさえ官能的なものに見えて。 「慎!…やめろ…ぁう」 「お前がやってみろって…言ったんだろ。」 「やめろ…ふ…ぅあ」 必死な顔も可愛く見えて、喰らい続ける。 ようやく、終えた頃には小一時間が経っており、お互い息が上がっていた。 「理世、大丈夫か。」 「ウッはあ…はあ…大丈夫に見えるか。制御しろよ…はあ…回復したら覚えてろ。てか、怖いんだよ。血ぃ垂らしながらがっつくやつ。…っはあ。」 「悪い。」 俺は白い肌に散った紅を親指で拭う。そのとき触れた肌が熱くて焦る。 「理世、寝ろ。…いやベッド移れ。血が凄い。」 「お前のだよ。男とキスして興奮して出血多量で死にました。なんてシャレになんねえぞ。」 「ふはっそうだな。…汚れるから自分で移れ。」 理世を片手で引き上げて、先にベッドを降りる。少しふらついたがしっかりと立ち、手を差し伸べる。俺の手を取り隣のベッドに移る理世を寝かせる。汗をかいた服を着替えさせられるだけの余裕はない。 「悪いな。起きたら着替えろ。おやすみ。いい夢を。」 視界を覆ってやるとしばらくして寝息が聞こえてきた。俺は息を吐いて自分のベッドのシーツをはずし下に降りた。 「慎!起きたのね。ああ。傷、開いちゃった?」 「ああ。悪いな。これ捨てた方がいいか?」 「そうね。洗うより新しいの出しましょうか。待ってて。椎名を呼んでくるわ。」 リビングに行くと唯義兄と結奈、真琴、双子がテレビでゲームをしていた。 「あっ慎にい、おはよう!」 「おはよう、なにしてんの?」 「マ○オだよ。慎にいもする?」 「ああ。───」 「何言ってんの。ほら慎にい座って。」 「えっ慎にいどうかしたの?」 「傷が開いたのよ。ほら早く。」 「椎名。義姉に似てきたな。」 「ほんとにな。美紅との喧嘩なんて力でも口でも椎名が勝つ。」 「それは美紅が弱いのにふっかけてくるからでしょ。ほら腕出して。」 「それにいちいち応えてるお前も美紅のことが相当好きなんだな。」 「好きじゃないし!むしろ嫌い。」 「痛い!痛い!分かったから優しくしてくれ。」 「痛いなんて微塵も思ってないくせに。ねえお兄ちゃん。綺麗な彼は恋人?」 「恋人…ではないな。」 「じゃ私と付き合ってよ。」 「はあ?」 「ダメだよ。美紅ちゃん。慎にいは私のものなの。」 「あのなお前ら──」 「結奈は無理だよ。まだ1年生じゃん。」 「美紅ちゃんだって1年生じゃん。」 「私は中学1年生。結奈は小学生。慎にい出来たよ。」 「あ、ああ。ありがとう。」 「で?慎にいどうなの?」 「いやいやどうなのと言われても…」 「私じゃダメ?」 「ダメとかそういう話じゃなくて、そうだな。」 俺は椎名を押し倒した。目を見開く椎名に圧をかけながら言う。 「椎名。股開け。」 「えっ…ぅあっ」 「椎名。」 「ひっ…あっ」 俺は圧を解いた。 「怖がらせて悪かった。でも、分かったろ?軽率に男を誘うな。椎名は可愛いんだからすぐに喰われる。…そうだな。そういう相手ができたら連れておいで。悪いやつは見極めてやる。」 ゆっくりと頭を撫でてやる。 「うっあっごめんなさい。」 「大丈夫だよ。結奈もわかったね?」 「っうん!」 我関せずでゲームを続ける義兄に声をかける。 「悪い。唯義兄。理世を唯義兄のベッドに寝かせたから今夜は俺のベッド使ってくれ。」 「お前は。」 「そうだな久々に森で寝るよ。」 「は?お前自殺願望でも持ってんのか。」 「大丈夫だよ。クインがいる。クインは長だ。守ってくれる。それに…今日は彼女に悪いことをした。謝らないとな。」 「この野生児が。勝手にしろ。食われても知らねえ。」 「ふはっ。さて椎名。美紅を呼んでこい。夕飯の支度をする。」 「ほんとにこれから美紅とするの?」 「子供の中では最年長だろ。義姉を助けてやれよ。」 「分かったよ。あっじゃあ慎にい、1週間に1回電話していい?」 「なんでそうなる…分かったよ。」 「結奈もする!」 「はいはい。時間があったらね。じゃあ美紅呼んでくるね。」
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