第1章 怪しげな依頼

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 なにしろ無茶苦茶な話だし。  でも、この7年、事務所から理不尽な仕事を押し付けられたことはないしなぁ。  嫌だと言えば、絶対、無理強いはされない。  この業界の人としては珍しく、酒井さんはあくどい人間じゃない。  いや、どっちかと言えばお人好しすぎるぐらいだ。  本当にまずい仕事だったらはじめから受けないだろう。  わたしは酒井さんの目を見据えた。 「断れないんですよね。違います?」  酒井さんはぽんと膝を打った。 「さすが来栖ちゃん。話が早いね。昔からいろいろ世話になってる人を通しての依頼なのよ。それに最近、うちの経営、かなりきつくてさ。引き受けてくれたら、ほんと、助かるんだよね」  酒井さんは手を合わせて拝むフリをする。  もー、しゃーないなー。  こういうとき、頼まれると断れない性格がひょっこり顔を出してしまう。
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